イーロン・マスクのすすめ

イーロン・マスクとモーター原理、電磁気力や電磁誘導について

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第一原理

今回はモーターの動作の原理について説明していきたいと思いますが、まずはイーロン・マスクのこの名言から。

推論よりも、第一原理から思考することのほうが重要だと思います。

I think it’s important to reason from first principles rather than by analogy

http://www.businessinsider.com/elon-musk-first-principles-2015-1

第一原理とは物理学的に世界を眺めることです。これはもっとも本質的な事実まで突き詰めて、そこから推論をするという意味です。非常に精神的なエネルギーを使います。

“First principles” is a physics way of looking at the world. What that really means is that you boil things down to the most fundamental truths and then reason up from there. That takes a lot more mental energy.

http://studioblog.envato.com/elon-musks-greatest-weapon-laymans-guide-first-principles/

イーロン・マスクはこの原理に則って世の中を次々に変えていっています。スペースXのロケットのコストを大幅に下げることが可能だと見抜いたのも、ロケットの打ち上げに必要な材料を市場価格から計算し直したからです。イーロン・マスクは決して「通常このくらいコストがかかるもの」というような通念に惑わされたりしませんでした。この原理こそイーロン・マスクが達成してきた数々の偉業の元にあるもので、彼の思考のベースにあるものなんですね。

ちなみに第一原理から思考するというやり方は世の中にあふれる「こうやったら成功する」といった成功の秘訣みたいなものの対極にあります。世の中の成功の秘訣はおおむね成功者が自分の成功体験を語り、そこから類推される法則のようなものを指しますよね。でも第一原理というのは物理学的な視点から見た本質的な要素から思考を組み立てるということです。そこには成功者の体験という主観的なものは一切含まれません。どこまでも冷徹に客観的事実を重視します。

第一原理から思考することで生まれた結論というのはときに世間をアッと驚かせます。イーロン・マスクが火星に人類を移住させると言ったとき、大勢の人々はできっこないと思いました。しかしイーロン・マスクは私財を投げうって全力でプロジェクトを進めています。スペースXが打ち上げ成功を重ねるたびに、次第に人々はイーロン・マスクならできるかもしれないと思い始めました。

  イーロン・マスクと他に人々との違いはこうです。イーロン・マスクは第一原理つまり物理学的な視点から人類を火星に送り届けるのは可能だと結論をだしていました。しかし他の人々は「今まで誰も成し遂げてないから」とか「NASAでもムリなのに」という見方をしていたわけです。そしてスペースXの成功をみて考えを変えつつある。両者がまったく違う観点から考えていることがわかりますね。世の中を変えるのはイーロン・マスクの思考法です。世の中は社会通念で成り立っているのではなく、物理法則が支配する物質の集合で成り立っているからです。ぜひ僕たちもイーロン・マスクにならって第一原理から思考をしてみようではありませんか。

  ということで、今回はモーター動作の仕組みを第一原理から見ていくことにしましょう。イーロン・マスクが言うようにかなりの精神的なエネルギーを要求されますが、なるべくわかりやすくご説明していきたいと思います。




電気でモノが動く仕組み

モーターとは電力(磁力)を運動エネルギーに変えて回転する機械のことです。電力とは電気の力のことで、バッテリーや自宅などのコンセントから流れてきますね。磁力とは磁石の力のことで、皆さんご存知のあの磁石です。赤と青のU字型磁石が一番イメージしやすいと思いますが、S極とN極がついてるアレです。

皆さん子どものときに磁石に夢中になりませんでしたか。僕はなりました。磁石の間に見えない力があって、磁石がけっこうな勢いでくっついたり離れたりするのが不思議で仕方ありませんでした。モーターはこの不思議な力によって回転しているわけです。

ではどうやって電力を磁石の力に変換しているのか。まずはもっともシンプルな仕組みを説明します。

・一本の電線(銅など)を丸めます(四角でも可)

・それを磁石のN極とS極の間に置きます

・電池を準備します

・電池の+とーからそれぞれ電線を輪を描くようにのばします

・電池から伸びた電線の両端の間に最初の丸めた電線を置きます
※つまり最初の丸めた電線が、磁石と電池から伸びた電線それぞれの間に置かれるわけです

・電池から電気を流せばこの電線が動きます

これがもっとも簡単な仕組みです。

なぜ最初に丸めた電線が動くのかというと、それは電線に電気を流すことで、電線が磁力を帯びるからです。ちなみに磁力がなかった物質が磁力を帯びることを磁化するといいます。磁石同士はくっついたり離れたりしますよね。磁石に挟まれた電線が磁化して、外側に配置された磁石と反発したり引き合ったりします。その力で動くわけです。

なぜ電線に電気を流すと磁力を帯びるのか、ですが、これは電流が磁場をつくるからです。磁場とは磁石の磁力が影響する場のこと。つまり磁場のなかにある物質は磁石の影響をうけるってことです。

なんか同語反復っぽくなってきましたが、ここらへんを理解するためには電気と磁石の関係を知る必要があります。そしてそれを理解するには物質のもっとも根本的なところまで降りていく必要があります。

自然界の4つの力

ここからちょっとディープな話になっていきます。イーロン・マスクが言ったようにかなり精神エネルギーを使うかもしれないのでご了承ください。

世の中のあらゆる物質をどんどん細かく見ていくと、分子に分解できます。たとえば水は水分子の集まりです。水分子はH2Oですね。そして分子は原子に分解できます。Hは水素原子、Oは酸素原子です。水素原子2つと酸素原子1つの組み合わせが水分子というわけです。さらに、原子は電子と原子核に分解でき、原子核は陽子と中性子によって構成されています。

・分子

・原子

原子核(と電子)

・陽子と中性子

原子を画像で見るとこんな感じです。真ん中が原子核(陽子と中性子)、外側をまわっているのが電子です。

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陽子や中性子クォークレプトンと呼ばれる粒です。それらはこれ以上小さく分解できない粒ということで、素粒子と名付けられました。つまり世の中すべてのものは素粒子で構成されているということです。

で、その万物の根源たる素粒子を支配している力はたったの4種類しかありません。それは重力、電磁気力、弱い力、強い力の4つです。どういうことかというと、この世界を動かしている力は元をたどれば必ずこの4つの力のうちのどれかに当てはまるってことです。このあたりが現在の僕らの科学が解明している極地といってもいい領域です。

ここからちょっと4つの力を簡単に説明していこうと思います。まずは重力。重力は皆さんご存知の力ですよね。万有引力ってやつです。

次に弱い力と強い力。重力がマクロで僕らでも体感できる力だとすれば、弱い力と強い力はミクロで僕らには体感しにくい力です。原子核レベルで働くのが強い力と弱い力なのですが、陽子と中性子をまとめてる力が強い力で、陽子を中性子に変えたりする変な力が弱い力です。まぁ、本当にミクロなところで働く力です。(あまり体感する機会はありません)

で、最後に電磁気力ですが、これが電気の力と磁力の力のことなのです。電気と磁石をあわせて電磁気力。つまり電気と磁石は同じ力ということです。コインの裏表と言ってもいいですが、どちらも電子というやつが原因で発生する力です。そしてじつは僕たちが経験することのできる(重力を除く)すべての力の正体はこの電磁気力なのです。




電磁気力

では続いてこの電磁気力について見ていきたいと思います。

電子は原子核の周りを回っている素粒子ですね。つまり原子を構成する物質の1つ。地球が太陽の周りを回ってるようなものですが、地球が公転だけではなく自転もしているように、電子も自転してます。これがスピンといわれるやつです。この電子スピンが磁力の源です。電子の回転エネルギーと言い換えてもいいですね。電子スピンには上向きと下向きの二種類しかなく、それぞれの方向がS極とN極を示します。電子の回転エネルギーが磁石同士をくっつけたり離したりしてるってすごいですよね。

ところで電子はいつもスピンしているので、常に磁力を生み出し続けているんですが、原子には複数の電子があるのが一般的です。そしてそれら複数の電子はバラバラの方向を向いてスピンしているため、スピンから生み出される磁力は互いに打ち消し合っています。だから磁石以外の物質は磁力を持っていないわけです(かすかには持ってますが)。一方で、磁石の中の電子たちは同じ方向を向いてスピンしているため、磁力が発生しています。

磁力の説明でわかりやすいドメイン理論ってやつがあるのでご紹介しときますね。このサイトの説明がとてもわかりやすかったので引用しときます。

ある工場を想像してみてください。その工場では学校でおこなう科学の授業のために棒状の磁石をつくって、学校まで届けてあげています。その工場で働くデイブはトラックの運転手。工場でつくられた磁石を段ボール箱に入れて、いろんな学校に運ぶ仕事です。デイブは段ボール箱の向きを気にする時間がないから、いい加減に段ボール箱をトラックに積み込みます。ある段ボール箱の中の磁石は北を向いているかもしれないし、その隣の箱の磁石は反対側の南、もしかして東や西を向いているかもしれません。全体的にめちゃくちゃなので、段ボール箱から磁場が発生していたとしても、それぞれが打ち消し合っているわけです。

さて、この工場には他のトラック運転手も働いています。彼の名前はビル。ビルはデイブとはまったく違う性格でした。彼はすべての物事をきちんとするのが好きで、トラックに積荷するときもデイブとは違って全部の段ボール箱の中の磁石がきっちり同じ方向を向くように並べています。どうなるかわかりますか?トラックが運転席側がN極、荷台側がS極という巨大な1つの磁石になってしまうのです!

この2台のトラックの中で起きたことが、小さな規模で、磁気を帯びた物質の中で起きているのです。ドメイン理論によれば、鉄の棒はドメインと呼ばれる小さなポケットをたくさん持っています。それぞれのドメインは磁石が入った箱のようなものです。何を言いたいかわかりますか?鉄の棒はトラックみたいなもので、ふつうは積み込まれている箱はバラバラに置かれていて、全体的には磁力はありません。つまり鉄は磁化してないわけです。しかし、すべての箱を同じ方向にきちんと並べたら、そこには磁力が発生します。あーら不思議!その鉄の棒が磁石になりました。磁石で磁化してない鉄の棒を何回かこすると、鉄の棒の中にあるたくさんの磁石の箱(ドメイン)が同じ方向に並べ直されます。(注:つまり磁化して磁力を持ちます)

Imagine a factory somewhere that makes little bar magnets and ships them out to schools for their science lessons. Picture a guy called Dave who has to drive their truck, transporting lots of cardboard boxes, each one with a magnet inside it, to a different school. Dave doesn’t have time to worry which way the boxes are stacked, so he piles them inside his truck any old how. The magnet inside one box could be pointing north while the one next to it is pointing south, east, or west. Overall, the magnets are all jumbled up so, even though magnetic fields leak out of each box, they all cancel one another out.

The same factory employs another truck driver called Bill who couldn’t be more different. He likes everything tidy, so he loads his truck a different way, stacking all the boxes neatly so they line up exactly the same way. Can you see what will happen? The magnetic field from one box will align with the field from all the other boxes… effectively turning the truck into one giant magnet. The cab will be like a giant north pole and the back of the truck a huge south pole!

What happens inside these two trucks is what happens on a tiny scale inside magnetic materials. According to the domain theory, something like an iron bar contains lots of tiny pockets called domains. Each domain is a bit like a box with a magnet inside. See where we’re heading? The iron bar is just like the truck. Normally, all its onboard “boxes” are arranged randomly and there’s no overall magnetism: the iron is not magnetized. But arrange all the boxes in order, make them all face the same way, and you get an overall magnetic field: hey presto, the bar is magnetized. When you bring a magnet up to an unmagnetized iron bar and stroke it systematically and repeatedly up and down, what you’re doing is rearranging all the magnetic “boxes” (domains) inside so they point the same way.

http://www.explainthatstuff.com/magnetism.html

どうでしたか。かなりわかりやすい説明だと思うのですが。で、じつはこのドメイン理論は原子構造がわかる前に考えられた理論なのですが、原子構造が分かった後でも基本的に対応可能な理論でした。以下ですね。

  • 段ボール箱→原子
  • 箱のなかの磁石→電子
  • 磁石の向き→電子スピンの向き

こんな風にドメイン理論から考えると磁力というものを理解しやすいかと思います。

ところで世の中を構成しているすべての大元である原子から磁力が発生しているなんて驚きじゃないでしょうか。当然僕らの身体も原子からできているので、電子スピンの向きが揃えば磁力を発生させます。

たとえばその原理を利用したのがMRIです。人間の臓器や血管などを撮影する機械ですね。検査をうける人はMRIの中に入るんですが、MRIは磁力を発生させて人体の水分子内にある水素原子核(じつは電子だけじゃなく原子核もスピンしてて磁力を発生させます)を磁化させます。つまり人間の身体を磁石にしてしまうのです。そして水素原子核から出てくる周波数をを計測して画像化する技術です。

こんな感じでありとあらゆるものが潜在的に磁力を持っているわけです。

次に電気について。電気とは電子が移動することで発生し、電子が移動することを電流といいます。電子は原子核の周りにいるものなんですが、たまにいなくなったりするんですね。電子はマイナスの電荷、陽子(原子核を構成してます)はプラスの電荷をもって原子内で釣り合ってますが、電子がいなくなるとその原子はプラスの荷電粒子となります。マイナスの電荷がなくなるからですね。

プラスとマイナスの関係は磁石のS極とN極の関係と同じです。プラスとマイナスは引き合いますが、プラスとプラス、マイナスとマイナスは反発します。いったん電圧がかかって原子内から電子が飛び出すと、原子内の電荷のバランスが崩れるので、その原子は別なところから電子を引っ張ってこようとするわけです。そうやって電子が次々に原子間を移動することを電流が流れると言うわけです。

つまり磁力は電子のスピン、電気は電子の移動で生まれるということですね。

電子は電子スピンの方向が逆の電子を引きつけ、同じ方向の電子と反発します。ってことは電子スピンの向きが揃っている磁石は電子の移動を引き起こすわけです。なので電線の近くで磁石を動かせば、電線内の電子が磁場の影響を受けて移動するので、電線に電流が流れます。これが電磁誘導と呼ばれるものです。

・磁石の中は電子の向きが揃っている

・磁石の電子が電線の中の電子に影響をあたえる

・電線の電子が移動する

・電線に電流が流れる

といった感じです。

そしてこの逆で電流が流れるとそこに磁場が発生します。つまり電流が流れている電線は磁石になるということです。これを電磁石と呼びます。なぜそうなるかですが、これがめちゃくちゃ難しい話になりそうなので、しぶしぶ割愛させていただきます。電子の移動(電流)があるときしか磁石になりませんがそこらへんは相対性理論の話にもなるようです。日本語、英語でいろいろ調べてみましたが、わかりやすい説明を見つけることができませんでした。もし今後わかりやすい説明ができそうだったらこのブログでやりますね。

ということで、電気と磁石というのは同じところからきている力なわけです。この2つの力はまとめて電磁気力と呼ばれ、電磁気力は世界全体を支配する自然の4つの力のうち。僕らの生活にもっとも影響を与えている偉大な力なのです。




電磁気力の活用

さて、ようやく今回の記事の終盤戦です。簡単にではありますが、モーターの中で何が起こっているのかを説明しますね。モーターには電機子というものがあり、電機子には電線が巻きつけてあります。電気を流すことで電機子に巻き付いてる電線を磁化させ、外側に配置した磁石との反発力で電機子を回します。これが電気を流したらモーターが回る仕組みです。

いままで第一原理から考えてきたのでこの説明だけですんなり納得できるのではないでしょうか。

じつはこれが理解できれば発電所の仕組みも簡単に理解できるんです。発電所では水を沸騰させることで水蒸気を発生させてタービンを回します。火力発電では石油や石炭を燃やすことで、原子力発電では核分裂で水を沸騰させます。そして、タービンによって発電機の中のコイル(電線をグルグル巻いたもの)が回転します。タービンとは蒸気のエネルギーを回転エネルギーに変える機械のことなんですね。で、発電機にはコイルと一緒に磁石もありますので、以下の流れでコイルに電流が流れて発電します。

・コイルが動く=(コイルから見ると)磁石が動く (※じつはこのへんの相対的な動きをうまく説明したのがアインシュタイン相対性理論なんです)

・電磁誘導でコイルの電線に電気が流れる

・その電気を利用する

僕たちの生活は電気によって成り立っています。電気によってモーターが動き、PCのファンが回ったり、洗濯機が稼働したり、電子レンジが動いたり、例を挙げたらキリがありません。もちろん電気自動車もモーターによって走ります。そしてその電気は発電所から供給されています。

つまり電磁気力を理解することは、電気のスタートとゴールを理解することにつながります。発電所から電気が供給され、モーターが回る。つまり僕たちの生活の基本的な仕組みを理解するってことです。これはけっこうすごいことだと思いますけど、どうでしょうか。

こういう風に第一原理まで深く潜ってからいろんなことを考えてみると、たとえばイーロン・マスクが突拍子もないことを言い出しても、それが本当に馬鹿げたことなのかどうか判断できるようになると思います。最初にご紹介したイーロン・マスクの言葉にもありますが、世間は第一原理までさかのぼって判断を下したりしません。やるのはあくまでも推論で、それは専門家が言ったからとか、今までそうだったからとか、そういうい、ば二次情報を元にした推論です。イーロン・マスクはそういう推論ではなく、第一原理から思考しようと呼びかけています。精神的エネルギーは消耗しますが、それでも第一原理まで降りていかないと物事の本質を理解できません。本質を語り続けるイーロン・マスクをフォローするにはこれをやるしかないんですね。でも世の中の仕組みを本質的に理解するのは楽しいことだと思います。できるだけ第一原理に近づけるようがんばりたいですね。

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