理論

「ELON」がどのような理論によって設計されているか、興味のある方に向けて解説します。種明かしのようなもので、実践にはあまり関係がありません。

動機づけ

「ELON」の最大の特徴は、英語学習を継続的に運用していくために、「英語を仕事にすること」を軸に設計されている点です。

第二言語学習の動機や動機づけの研究は、Gardnerが中心となって発展しました。

動機づけには「統合的動機づけ」と「道具的動機づけ」があります。簡単にいうと、前者は「文化への興味」で、後者は「実利への興味」です。

学習の目的を「仕事」に設定している「ELON」は、「道具的動機づけ」を中心に据えていることになりますね。

「統合的動機づけ」が重要である点は疑いようがありません。ただ、実際に文化に触れるには、かなりの英語力が求められます。

成果がすぐに出ないため、「統合的動機づけ」で英語学習をすすめる人たちの多くは、学習の初期段階で挫折してしまいます。

いかに挫折せずに英語学習を継続することができるのか。

「ELON」では「仕事につなげる」という「道具的動機づけ」で、学習初期段階の挫折を防ぎます。

仕事で英語学習を運用できれば、「統合的動機づけ」で学習できる英語力まで、強制的にレベルアップします。

学習初期は「道具的動機づけ」、仕事につながったあとは強制力、英語力が向上したあとは「統合的動機づけ」。

「ELON」で描いている段階的な動機づけのシナリオです。

内容

「ELON」の第二の特徴は、学習内容の多くをインプットが占めていることです。

Krashenは、第二言語習得においてインプットがもっとも重要であるというインプット仮説を提唱しました。

「ELON」はインプット仮説にしたがって、質の高い大量のインプットを学習のメインに据えています。

ただし、インプットのみでは英語習得が不可能。これはKuhl, Tsao, & Liu等の研究により明らかになっています。

たとえば、インプットだけで学習した場合に、「受容的バイリンガル」(理解はできるが話せない)のような事例が確認されています。

英語習得の肝は「アウトプットの必要性」がある環境でのインプット。「ELON」で「仕事」という「アウトプットの必要性」を強調している理由です。

構成

「ELON」の第三の特徴は、ビギナーズフェーズマスターズフェーズの二段階構成をとっている点です。

Gass等が提唱している第二言語習得の「認知プロセス」というものがあります。

「認知プロセス」では、インプットからアウトプットに至るまでを、1)「気づき」2)「理解」3)「内在化」4)「統合」に区分しています。

この「認知プロセス」と、Selinkerが提唱した中間言語モデルをもとに、「ELON」は構成されています。

ステップの目的と意味

ビギナーズフェーズやマスターズフェーズで用意された各ステップは、次のステップで学習する英語の「気づき」を付与する役割を担っています。

たとえば、「プレトレーニング」の「文法」と「ボキャビル」。「浅いレベルの理解」(意味だけを理解している状態)をつくるための配置です。

次のステップの「シャドーイング」や「瞬間英作文」で、「深いレベルの理解」(実際に運用できる状態)へ導きます。

そこから「実践」ステップにすすむ。認知プロセスの「内在化」からの「統合」へつなげ、中間言語の形成とアウトプット能力の発展を促します。

また、各ステップを分けている理由は、可能な限り中間言語の化石化を防止するためという側面もあります。

「トレーニング」ステップや「実践」ステップでは、「深いレベルの理解」と「内在化」による中間言語生成が活発。

間違った文法や語彙が化石化しないように、「プレトレーニング」ステップを設けて、しっかりと正解を意識してもらいます。

フェーズの目的と意味

「ELON」の本番はマスターズフェーズ。もっとも時間をかける工程で、多くの時間と集中力が要求されます。

ビギナーズフェーズは、マスターズフェーズの下ごしらえのようなもの。難易度の高いマスターズフェーズに向けて、準備を整えていきます。

ビギナーズフェーズでは、コアな文法や語彙限定で認知プロセスを意識してもらいます。英語学習の基礎能力を養うと同時に、英語学習のプロセスが実感できるわけです。

コアな文法・語彙を徹底して鍛える目的は、マスターズフェーズで学習する英語を、Stephen Krashenの言葉でいう「i+1」(理解可能な難易度)にするためです。

また、学習プロセスの理解と経験は、マスターズフェーズにて「メタ認知」による「認知方略を取りいれるためでもあります。

学習プロセスの理解と経験は、「ELON」のおいてとくに重要なポイント。マスターズフェーズとビギナーズフェーズがほぼ同じ構成になっている理由もここにあります。

各ステップと各フェーズの入れ子構造で、認知プロセスを効果的にフル回転させる仕掛けを用意しているというわけです。

効果

「ELON」を修了した学習者は、下記の状態を完成させています。

  • 仕事ができるレベルの英語力を保持
  • 「負の言語転移」が発生しにくい、および「負の言語転移」について自覚的
  • 「過度の一般化」が発生しにくい、および「過度の一般化」について自覚的
  • 質の高い「予測文法」を保持
  • 質の高い「認知方略」の実践が可能

英語習得という長い道のりの序盤段階ではありますが、今後のすべての学習の基盤となります。

「ELON」修了後は、仕事をとおして継続的にインプットとアウトプットを繰り返しながら、英語習得がすすみます。

とくに「コミュニケーション」・「意味干渉」などのアウトプットは、仕事で緊張感をもっておこなうのが効果的。

英語学習のプロセスを実感を伴って理解している学習者は、今後ますます効率的に英語を学習していくことでしょう。

この段階までいかに挫折せず効率的に到達するのか。「ELON」の設計の中心となっているポイントです。

おすすめ教材

「ELON」を支える理論をご紹介してきましたが、ベースとなっているのは第二言語習得研究(SLA)と呼ばれる研究です。

詳しく知りたい方は以下の2つの本をおすすめします。どちらも初学者向けに書かれているため、とてもわかりやすく丁寧です。

↑こちらは第二言語習得研究の内容を体系的に簡潔にまとめてあり、最初に読む本としては完璧。圧倒的な完成度の高さに惚れ惚れします。第二言語習得研究に興味がある方は絶対に読むべきだと断言できます。

↑こちらも第二言語習得研究がわかりやすく紹介されています。良質な講義を聞いているような淀みのない文章で、第二言語習得研究のさまざまなトピックを一通り確認することができます。無理なく愉しく読めるのでおすすめですね。