イーロン・マスクのすすめ

イーロン・マスクがEVをつくる理由とテスラのモーターについて

f:id:Elongeek:20150306224503j:plain

イーロン・マスクテスラモーターズ

今回はテスラモーターズ電気自動車についてお話したいと思います。とくにモ ーターについて見ていきます。

テスラモーターズは2003年に設立された自動車メーカーですが、その特徴は電気自動車の生産・開発に特化しているという点です。CEOはイーロン・マスクで、イー ロン・マスクには自動車開発のバックグランドはありません。これってすごいと思 いませんか。

自動車というのはものすごく複雑な代物です。部品点数が膨大で、下請け会社が様々な部品を作っています。そこにはノウハウがぎっしり詰まっているわけです。それに F1なんかを見てるとわかると思いますが自動車の性能向上は日進月歩です。そんな参入障壁がやたら高そうな自動車産業イーロン・マスクはなんのバックグラウンドも持たずに彗星のように現れて、わずか数年で多くの人を魅了する自動車を作ってしまいました。

ではバックグラウンドがないにもかかわらず自動車産業に参入できたのはなぜで しょうか。答えはテスラモーターズ電気自動車に特化してるからです。どういうことかというと、電気自動車には自動車の部品のなかでもっとも複雑なエンジンが不要だからなのです(モーターを使います)。つまり部品点数が大幅に少なくなるので、自動車作りが根本的に違ってくるわけですね。なのでイーロン・マスクはバックグラウンドがなくても自動車産業に参入できたのです。




ガソリンエンジン

さて、ではその参入障壁を打ち壊したモーターについて話していきますが、その前にまずは自動車エンジンとは何かに触れておきましょう。

自動車エンジンは内燃機関のことで、内燃機関とは燃料を燃やして熱エネルギー を取りだし、その熱エネルギーを運動エネルギーに変換する機械のことです。ほとんど自動車のエンジンはガソリンエンジンですね(ディーゼルエンジンについては省略)。ガソリンが燃料ということです。このガソリンを燃やすためには酸素が必要なのでまず外部から空気を取り入れて、その空気に燃料を混ぜます。そして圧縮してスパークプラグで点火。するとその爆発したエネルギーでピストンが動き、クランクシャフトを通してタイヤが回転します。

・熱エネルギー(爆発)

・直線運動エネルギー(ピストン)

・回転運動エネルギー(クランクシャフト)

という流れですね。最終的にはタイヤのゴムと路面の摩擦によって自動車が走ることになります。摩擦のメカニズムを深く理解するためにはトライポロジー研究( 中性子を用いて分子の動きを調べる研究)が参考になりますが、今回はモーターに ついての記事なので省略させてください。

ここからはテスラモーターズの公式HPから引用しながら見ていきましょう。まずはエンジンについて。(上記で説明したようなことですが)

http://my.teslamotors.com/roadster/technology/motor

内燃機関は複雑な機械です。完璧な調和でバルブが開き、点火プラグが着火し、ピ ストンが動き、クランクシャフトが回転します。4サイクル毎に空気と燃料が合わ さり爆発し、ピストンが下がります。クランクシャフトがピストンの直線運動を回 転運動への変えてタイヤを回転させます。

The Internal Combustion Engine is a complex, amazing machine. In perfect concert, valves open, spark plugs ignite, pistons move, and the crankshaft turns. Every fourth cycle an air-fuel mix explodes and a piston is forced down. The crankshaft converts the linear motion of the piston and connecting rod to rotational motion that eventually propels the vehicle.

と、エンジンがいかに複雑で高度な機械なのか説明してあります。熱エネルギ ーを得るために、そして熱エネルギーを運動エネルギーへ変換するために様々な技術が詰め込まれているわけです。必然的に部品もたくさん使います。

優れた技術や部品を使っているエンジンですが、じつはこの複雑さゆえにエネル ギー効率があまり良くないそうです。

不幸にも内燃機関の複雑さはエネルギーを無駄にしています。よくてもガソリンが もつエネルギーの30%ほどしか運動エネルギーに転換できていません。残りは熱と騒音へと消えていっています。

Unfortunately, Internal Combustion Engine complexity results in wasted energy. At best, only 30% of the energy stored in gasoline is converted to forward motion. The rest is wasted as heat and noise.

ガソリン車のエネルギー効率はわずか30%。じつは自動車(ガソリン車)はこれまでエネルギー浪費型の交通機関だと言われてきました。たとえば日本はアメリカにくらべると電車の普及率が圧倒的です。つまり自動車に頼ってない国(電車社会)と言えます。

日本の国内総生産は世界全体の約10%にあたりますが、エネルギー消費量は5~6%ほど。たいしてアメリカは国内総生産もエネルギー消費量も世界の25%です。
(クルマ社会・7つの大罪: アメリカ文明衰退の真相 著者: 増田悦佐 参照)

これはつまり電車社会である日本はエネルギー消費を経済活動へ変換する効率がものすごく高いということで、その変換効率は世界平均の約2倍だそうです。アメリカのエネルギー消費を経済活動へ変換する効率は世界平均レベル。このように電車社会の日本と自動車社会のアメリカをくらべるとガソリン車のエネルギー効率の悪さがよくわかりますね。

あくまでもテスラモーターズイーロン・マスク)目線からになりますが、自動車エンジンについてまとめると、複雑で部品が多くエネルギー効率も悪いって感じ になります。(ずいぶん自動車エンジンを悪く言ってるみたいになりましたが)




テスラモーターズのモーター

このようにエンジンのデメリットを散々強調しているイーロン・マスクですが、ではテスラモーターズのモーターはどういう風に優れているのでしょうか。まずはエネルギー効率について。

ロードスターは88%のドライブ効率を達成しています。これは従来の自動車の3倍の 効率が良いことを意味します。

The Roadster achieves an overall driving efficiency of 88%, about three times the efficiency of a conventional car.

エンジンが30%だったので、テスラモーターズのモーターはエンジンにくらべてエネルギー効率が3倍良いわけです。すごいですね。メリットはそれだけではありません。

電気モーターは非常にシンプルです。モーターは電気を運動エネルギーに変え、運動エネルギーを電気へと変えるジェネレーターでもあります。エンジンが無数の部品を必要とするのにくらべ、テスラロードスターのモーターで動くのはただ1つの部品、ローターのみです。回転するローターには直線運動を回転運動に変える必要性もありませんし、それをおこなうための機械的なタイミングの問題もありません。

Electric motors are profoundly simple. The motor converts electricity into mechanical power and also acts as a generator, turning mechanical power into electricity. Compared to the myriad parts in an engine, the Roadster motor has only one moving piece — the rotor. The spinning rotor eliminates conversion of linear motion to rotational motion and has no mechanical timing issues to overcome.

つまり電気自動車のモーターは自動車エンジンにくらべて構造がシンプルなので部品が少ないと。そしてジェネレーターとしても働く(エンジンにそんな機能はありません)ということです。どんな感じかというと。

ドライブでの状況が許すかぎり、ロードスターのモーターはバッテリーを充電する ジェネレーターとして働きます。アクセルが離されると、モーターはジェネレーターモードに切り替わり、自動車の速度を落とす間にエネルギーを得ます。従来の自動車で言うところのエンジンブレーキに似ていますが、もっと直感的なものです。 ドライバーは右足での微妙な調整によって自動車のスピードをコントロールできるのです。

As driving conditions permit, the Roadster motor acts as a generator to recharge the battery. When the accelerator pedal is released, the motor switches to ‘generator’ mode and captures energy while slowing the car. The experience is similar to ‘engine braking’ in a conventional car, but far more intuitive – the driver controls the car’s speed with nuanced adjustments of the right foot.

ではどうやってモーターとジェネレーターを切り替えるのかですが、それはアクセルペダルを踏むかどうかだけです。アクセルペダルを踏めばモーターになり、離せばジェネレーターになるというわけです。運転の感覚についても言及されてますね。そこらへんは加速性能も関わってきますが、引用しときます。

モーターは逆回転するのでバックギアも必要ありません。構造がシンプルで信頼性 があり、コンパクトで軽量なだけではなく、ウキウキするような独特のドライブ体験が可能です。ロードスターはほとんどのスポーツカーよりも優れた加速性能を持ち、雨天の山道でも高速道路でもいつでも即座にトルクを得られます。

the motor runs in reverse. No need for a reverse gear. Not only is this design incredibly simple, reliable, compact, and lightweight, but it allows a unique and exhilarating driving experience. The Roadster accelerates faster than most sports cars and whether driving on windy mountain roads or cruising down the highway, there’s always instant torque.

トルクとは回転の力のことです。アクセルを踏むとトルクに直結するため加速性能が優れているんですね。実際、電気自動車の運転はちょっと感覚が違っておもしろかったですよ。

以上のようにイーロン・マスクは設計のシンプルさ、エネルギー効率、乗り心地において電気自動車のほうがガソリン車よりも優れていると考えています。




テスラモーターズのバッテリー

ガソリンエンジンは燃料としてガソリンを使いますが、モーターは電気を使います。電気はバッテリーから供給されるので少しだけバッテリーのお話をします。

今まで見てきたように非常に優れた自動車である電気自動車ですが弱点もあります。それは走行距離と充電時間。テスラモーターズ電気自動車は走行距離が長いのでこっちはもう弱点にはなりません。問題は充電時間です。スーパーチャージャーと呼ばれる世界最速の充電器でもバッテリーを半分充電するのに20分かかるのです。

ぼくも日産リーフで経験があるのですが、電気自動車の充電はけっこうな弱点です。というのも大抵設置してある充電器は一台なので、他の人が充電していたら終わるまで待っとかないといけません。それはガソリンを入れるときも同じなのですが、充電時間が長いとその待ち時間も長くなるわけで、かなり時間に余裕があるときじゃないと辛いものがありました。

そこでテスラモーターズが準備しているのがバッテリー交換プログラムです。つまりすでに充電済みのバッテリーと交換してあげれば充電時間はかからないとう理屈。バッテリー交換は有料(普通の充電は無料です)なのですが、ドライバーは有料で速く済ませるか、無料でのんびりやるかを選択できるようになるんですね。

最初は予約制を計画しているようです。価格はハイオク満タンより少し安いくらい。時間は3分くらいかかるようです。ただ、将来的には1分未満での交換が可能になるそうで、そうなれば充電時間の問題もほぼクリアすることになるでしょうね。価格がネックになると思いますが、それは今後ガソリン価格が上昇していくなかで自然と(相対的に)解消されることでしょう。

なぜイーロン・マスク電気自動車を作るのか

過去このブログで見てきましたが、今後原油価格は上昇します。一時的に横ばいになったり下落したりはするでしょうが、原油の埋蔵量にはリミットがあるので原油価格の上昇は確実だと思います。それにCO2排出抑制など環境保全のニーズも高まることは間違いないので、ますますガソリン車は使いづらくなっていきます。

当たり前ですが自動車は交通機関の1つです。なのでこのまま何の対策もせずにガソリン車に頼りつづけていると僕らは主要な交通機関の1つを失ってしまうということになります。交通機関と僕たちの文明はものすごく密接な関係があるのでこれは大変な事態です。ちょっとここから交通機関と文明の関係性についてこの論文を引用しながら説明します。

http://www.cdeep.iitb.ac.in/nptel/Civil%20Engineering/Transportation%20Engg%201/03-Ltexhtml/nptel_ceTEI_L03.pdf

交通機関はどんな文明とも切り離せない。ライフスタイル、活動場所と活動領域、消費される製品やサービスと密接な関係性がある。交通機関の発達は生活様式や社会の仕組みを変える可能性をつくりだし、文明の発展に大きな影響を持っている。

Transportation is a non separable part of any society. It exhibits a very close relation to the style of life, therange and location of activities and the goods and services which will be available for consumption. Advances in transportation has made possible changes in the way of living and the way in which societies are organized and therefore have a great influence in the development of civilizations. 

という具合に僕たちの文明において交通機関がとても重要なものなのですが、一口に文明との関係性と言ってもざっくりし過ぎなので、少しだけカテゴリーを分けて、経済、社会、政治といった順番で見ていきますね。まずは経済。

経済は生産、流通そして製品やサービスの消費を含む。人々は自然の資源によって生きるために必要なものを揃えるが、地球の資源は平等に配分されているわけではないので、地域によって生活水準に格差が生じる。そこで特定の地域から他の地域へと資源を輸送する必要がある。ニーズがある地域への資源の輸送には素材から知識や技術といった医者や技術者の移動も含まれる。

Economics involves production, distribution and consumption of goods and services. People depend upon the natural resources to satisfy the needs of life but due to non uniform surface of earth and due to difference in local resources, there is a lot of difference in standard of living in different societies. So there is an immense requirement of transport of resources from one particular society to other. These resources can range from material things to knowledge and skills like movement of doctors and technicians to the places where there is need of them.

これはわかりやすいですね。その通りです。次に社会。

交通機関は常に都市社会の形成へ重要な影響を与えてきた。食料や水などを確保できる施設がその主な役割を担っているが、都市の大きさやパターン、社会の発展(とくに都市社会)から交通機関の分布が明確に確認できる。

Transportation has always played an important role in influencing the formation of urban societies. Although other facilities like availability of food and water, played a major role, the contribution of transportation can be seen clearly from the formation, size and pattern, and the development of societies, especially urban centers.

ようは都市を形作るうえで交通機関がいかに重要なファクターとなっているかってことですね。最後に政治の観点から。

世界は相互防衛、経済的優位性そして共通の文化の発展のために形成される多くの政治的集団に分けられている。それら政治的集団を機能させるために交通機関は重要な役割を担っている。

The world is divided into numerous political units which are formed for mutual protection, economic advantages and development of common culture. Transportation plays an important role in the functioning of such political units.

色んな人々が共通の目的のために集まり、それが政治的な力を持っているわけですが、そういう風に集まったり、もしくは目的達成のためにその集団を機能させたりするのに交通機関が重要だというわけです。

という感じで交通機関は僕らの文明と深く深く関わっているのですね。興味のある人は引用元を読んでみてください。短く的確に交通機関と文明の関係性が示されていておもしろいです。

交通機関の重要さが改めて認識できたところで最初の話に戻りますが、原油枯渇や環境保全のために現代の主要な交通機関である自動車が使えなくなると人類の文明規模で大きな影響があるわけです。言い換えれば、僕らの文明の発展にとってとてつもなく大きな阻害要因となるのです。

そこでイーロン・マスク電気自動車の普及によって文明発展の阻害要因を取り除こうとしているのです。ここにイーロン・マスクテスラモーターズを運営している最大の理由があります。文明の発展の速度を最速に保つための手を打っているわけです。

電気自動車が必要とするのは電気だけです。そして僕らは実に様々な手段で電気を生み出すことができます。もちろんその1つに原油を使う火力発電がありますが、テクノロジーの発展によってどんどん火力発電の割合を下げることができるでしょう。ところがガソリン車が必要とするガソリンは原油からしか精製されません。原油が価格の高騰やその他の要因で使えなくなったらどうしようもありません。

この単純な事実からだけでもガソリン車から電気自動車へシフトする必要性が理解できますね。その上テスラモーターズが言っているように電気自動車にはガソリン車にはないメリットがたくさんあります。はやく電気自動車が普及してほしいものです。

今回モーターについてやりましたが、近々さらに詳しくモーターの話をしたいと思います。どういう原理でモーターが動くのか、これを突き詰めていくと僕らの世界の根本的な成り立ちのところまで深く潜っていくことになるので楽しいと思います。

コメントは受け付けていません。