イーロン・マスクのすすめ

イーロン・マスクとスペースXのファルコン9、人工衛星について

f:id:Elongeek:20150303221024j:plain

 ファルコン9(16号機)打ち上げ成功

今回は電気自動車に使われるモーターの話をしようと思っていたんですが、昨日今日とスペースXが打ち上げに成功したとのニュースが飛び込んできたのでこっちをやりたいと思います。いやぁ嬉しいニュースですよ。

Twitterで実況されてました。

打ち上げ前

打ち上げ!

臨場感があってよかったです。

動画もすぐ観れるように貼っときます。

今回はファルコン9の打ち上げに成功したんですが、ファルコン9が最初に打ち上げ成功したのは2010年の6月です。ファルコン9の打ち上げはこの初号機から15号機まで5年間で一回も失敗してません。そして今回の16号機の打ち上げもまた成功を収めました。成功率100%です。ちなみに日本のJAXAが打ち上げているのはH-IIAロケットで、その打ち上げ成功率は96.77%。ただし試行回数がファルコン9の倍で31回やってます。31回中30回の打ち上げに成功してるんですね。世界各国でロケット打ち上げをやってますが、平均成功率は90%を上回っています。なので試行回数からしてもファルコン9の成功率100%が飛び抜けてすごいというわけではなさそうですが、それでもやはりすごいです。




今回の打ち上げの特徴

今回の打ち上げが今までのファルコン9の打ち上げと違う点は人口衛星を2つ同時に打ち上げたってところです。これを可能にしたのが今回の人工衛星のエンジンであるイオン推進システムです。ちょっとBBCニュースから引用します。

※このあと出てくるイオン推進システム、イオンエンジン、電気エンジン、電気推進電気推進エンジンなどは今回の文脈ではだいたい同じものと思っててください

どちらの人工衛星も赤道から36000km離れた最終軌道に到達するために電気エンジンを使用する。

キセノンイオンを推進力にするタイプは人工衛星の展開や開発での大きなトレンドと見られている。

電気型のスラスターの効率性は伝統的な化学推進エンジンで必要になる巨大な燃料タンクを廃止に追いやっている。

これはつまり人工衛星の積載物を増やせるとともに人工衛星自体の重量の削減に貢献し、ファルコンのような小さく安価なロケットで撃ち上げることが可能ということである。

Both spacecraft will use electric engines to get into their final orbital positions 36,000km above the equator.

The use of this type of propulsion – which accelerates xenon ions to provide thrust – is seen as a big trend in spacecraft design and deployment.

The efficiency of electric thrusters does away with the bulky fuel tanks required by traditional chemical engines.

This means either more payload components can be fitted on to a satellite of a given mass, or the mass itself can be driven down to allow the satellite to launch on a smaller, cheaper rocket – such as the Falcon.

http://www.bbc.com/news/science-environment-31694199

といった感じで、イオン推進システムのメリットを一言で言えば軽量化ということです。イオンエンジンはイオンを噴射することにより推進力を得るロケットエンジンです。イオンとは電子が多すぎるか少なすぎる状態の原子のことで、電子が多いとマイナスイオン、電子が少ないとプラスイオンとなります。こういう風に電子は原子にくっついたり離れたりするので、電子は原子間を自由に移動することができるんですね。この電子の移動を加速させることで機体が推進力を得るわけです。

ここらへんは別な記事で詳しく扱うつもりですが、今までは化学ロケットといって燃料と酸化剤を燃焼することにより高圧のガスを発生させて推進力を生み出すロケットが主流でした。これだと燃料タンクも必要だし、燃料自体の重量もあるし、危険だし、でイオン推進システムが注目されてるんですね。

そんな最先端のエンジンであるイオン推進システムですが、デメリットもあります。こちらから引用しときます。

デメリットとしては人工衛星静止軌道に乗せるために数ヶ月を要するということだ。

The downside, though, is that it will take the satellites months to reach geostationary orbit.

http://www.forbes.com/sites/alexknapp/2015/03/02/spacex-successfully-launched-two-satellites/

つまりスピードが出せませんよってことです。化学推進にくらべると最大推力が小さいんですよ。ですが、ユーテルサット社によればこれからもオール電化(電気エンジン)の人工衛星を打ち上げるとのこと。ローンチサイトでのユーテルサット社CEOのMichel de Rosen氏のコメントからその意気込みがうかがえます。

私たちはこの人工衛星とともに軌道へ向けた電気推進の新しい時代の草分け的役割を果たしている。優れた効率性と高い競争力への機会を提供したのだ。これはユーテルサット社30年の歴史のおいて新しい業績の一つであり、私たちの業界を次のステージに押し上げることができるだろう。

“With this satellite we are trailblazing a new era of electric propulsion for orbit raising that opens opportunities for greater efficiency and higher competitivity. It’s another first in Eutelsat’s 30-year track record of innovation that propels our industry onto the next stage.”

http://www.bbc.com/news/science-environment-31694199

といった具合に、電気推進は非常に期待されているわけですね。念のため追記しておきますが、ファルコン9は電気推進ではありません。電気推進なのは人工衛星です。ファルコン9は液体酸素/RP-1を推進剤としていますので、化学推進エンジンですね。化学推進はイオン推進の1000倍以上の推力がありますので、ロケット打ち上げには現状化学推進エンジンが必要になるのです。

では人工衛星のエンジンは何のためについているかですが、以下の2点です。

①ロケットから切り離されたあと静止軌道に到達するため

静止軌道上で軌道と姿勢を維持するため

通信衛星気象衛星は地球の観測が目的なので静止軌道に乗せる必要があります。静止軌道に乗せると地球の自転と平行して移動することになるので、特定の観測ポイントを観測し続けることができるんですね。静止軌道はけっこうな高度にあるので、ロケットはいったん低軌道に乗ります。そこから人工衛星は楕円軌道と呼ばれる軌道に乗って静止軌道まで行くのですが、その時点でロケットから切り離されるのです。あとは人工衛星のエンジンで静止軌道を目指します。

②観測を続けるためには軌道維持と姿勢制御をしなければなりません。静止軌道に乗り続けたうえで地球にたいして同じ面を向けておかないといけないからです。そのためにエンジンから推力を得て細かな移動や調整をする必要があるわけです。

以上が人工衛星がエンジンを内蔵している理由です。ところで人工衛星の燃料がなくなるとどうなるのかご存知でしょうか。身も蓋もない言い方ですがゴミになるんですね。燃料がなくなると軌道維持ができないので、人工衛星静止軌道から外れます。高度を下げていくと大気圏に突入して燃え尽きますが、通常は他の人工衛星の邪魔にならないように最後に静止軌道よりもさらに高く重力の安定している軌道へと上昇させます。これが人工衛星の末路というわけです。
 




関わった企業

今回の打ち上げに関わった企業はスペースXを除いて3社です。ユーテルサット社、アジア・ブロードキャスト・サテライト(ABS)社そしてボーイング社。打ち上げた2つの人工衛星ユーテルサット社とアジア・ブロードキャスト・サテライト(ABS)社のものです。さっきの記事から引用しておきますね。

ユーテルサット社とアジア・ブロードキャスト・サテライト(ABS)社の人工衛星を積んでの打ち上げだった。

この2つの企業は一緒に人工衛星の制作と打ち上げに融資していた。人工衛星自体はボーイング社によって作られている。

ユーテルサットの衛星はアラスカやカナダから南アメリカまでをカバーする自社の放送衛星ネットワークにつながる。ABSの衛星はいくつかの大陸でTVシグナル、インターネットバックホールそして携帯電話サービスの提供に使用される。

On board were satellites for two different customers, Eutelsat and Asia Broadcast Satellite (ABS).

The two companies jointly financed both the satellite construction and launch. The satellites themselves were made by Boeing.

Eutelsat’s satellite will join its network of broadcast satellite, providing the company coverage to its customers from Alaska and Canada to South America. ABS’s satellite will be used to provide customers on several continents with TV signals, internet backhaul, and cellular service.

ユーテルサットはフランス、アジア・ブロードキャスト・サテライト(ABS)は中国の会社です。2社とも人工衛星を運営する企業です。ボーイング社は言わずと知れたアメリカの世界最大の航空宇宙機器開発製造会社ですね。大型旅客機だけでなく、軍用機、ミサイル、宇宙船なども作っている超巨大企業です。

次のスペースXの打ち上げは3月21日が予定されていますが、そこではタレス・アレーニア・スペース社とトルクメニスタン政府の人工衛星が打ち上げられるとのことです。タレス・アレーニア・スペースはヨーロッパ最大の人工衛星開発企業ですし、やはり宇宙事業は地球規模なのでワクワクしますね。アジア・ブロードキャスト・サテライト社は2006年創業の比較的若い企業ですが、ベンチャー企業にとっても宇宙事業というのはまさにフロンティアといった感じでしょう。ホリエモンSNS株式会社で安価なロケット開発をおこなっていますが、日本の民間企業がこのフロンティア開拓に参加したらとても楽しいでしょうね。




ロケット再利用にむけて

イーロン・マスクはかねてより大幅なコスト削減のためロケットの再利用を提唱しています。現在ロケット一段目を海に浮かぶプラットフォームに軟着陸させる実験をおこなっていますがまだ上手くいってません。今回の打ち上げではロケット一段目の軟着陸は見送られましたし、次回でもやるつもりはないようです。ただイーロン・マスクのツイートによるとその次の打ち上げくらいで挑戦するそうですね。今からどうなるのか楽しみです。

コメントは受け付けていません。