イーロン・マスクのすすめ

イーロン・マスクのプレゼンにおける天才性

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先日テスラから発売されるバッテリーの発表がありましたが、そこでのイーロン・マスクのプレゼンが圧倒的だったので、今回のテーマにしたいと思います。じつは僕も発表の中身の方が気になって、プレゼン自体にはあまり注意を払っていませんでした。しかし、イーロン・マスクの今回のプレゼンが非常に素晴らしかったという記事を読んで、あらためてプレゼンを見返しました。こちらの記事です。

Watch Elon Musk announce Tesla Energy in the best tech keynote I’ve ever seen | The Verge

ちょっと記事から引用しますね。

十数年に渡りCEOたちがステージに上がって基調スピーチをおこなうのを見てきた。しかし、イーロン・マスクテスラにおけるバッテリーシステムについてのスピーチが、その中で最も素晴らしかった。多くの人々が反論するだろう。2007年にスティーブ・ジョブズiPhoneを発表したときのプレゼンと比べてどうだ、と。しかし、究極的にはジョブズはより良いスマートフォンを売っていたに過ぎない。イーロン・マスクはより良い未来を売っているのだ。

そして、筆者は辛辣にこう言い放ちます。

多くのテクノロジーレポーターがうんざりしている理由は明らかだ。あまりにも多くのテクノロジー夢想家たちが、自分たちがいかに根本的に全てを変え、世界を素晴らしくさせたのかを騙ってきた。去年の携帯電話より少しだけ薄くなった製品。誰かに「やあ」という言葉を送るアプリ。世界が続く間に楽しんでおけばいい。

イーロン・マスクは極めて優秀なエンジニアであると同時に、天才的なセールスマンとして知られています。プレゼンを見返して、その彼の天才性を確認することができました。

さっそく本題に入りましょう。今回のイーロン・マスクがおこなったプレゼンの凄さは以下の3つに要約できます。

  • 話し方
  • 構成
  • 時間

最初に「話し方」を、次に「構成」と「時間」を同時にご説明します。




話し方

まずはイーロン・マスクの「話し方」について。じつは、ここにイーロン・マスクの天才性が如実にあらわれます。さきほどの記事から引用しますね。

最も重要なことだが、彼はオーディエンスに向かって終始率直なトーンで語りかけていた。人々を操作したり騙してやろうといった感じは一切ない。やり過ぎの芝居臭さもなかった。そこにあったのは、新しい製品がいかに大きな問題を解決し得るか、それについての正直な会話だけだった。

イーロン・マスクの動画をいくつか見ている人はご存知だと思いますが、彼の「話し方」は決して流暢とは言えません。たどたどしく、言葉に詰まることもよくあります。しかし、イーロン・マスクの話には、人を惹きつける何かがあります。その何かとは、おそらく彼の持つ異常な説得力ではないかと僕は考えています。

彼は事実を喋ります。動かしがたい客観的な事実です。修辞的な話し方はあまり見られず、シンプルに事実を伝え、そこから導かれる結論を示す。往々にして結論が人々の予想や常識を超えているため、戸惑われたり眉をひそめられたりします。しかし、イーロンがおこなっているのは第一原理と呼ばれる物事の根本的なところまで降りて、そこから思考を組み立てるやり方。他人の意見や世の中の常識の影響から逃れているので、基本的に何を言われても主張がブレることはありません。そして、態度は率直。彼の意識は常に目の前の人に集中しています。これをやられると、聞き手は原理的なレベルで説得されます。原理的に考えるとこれしかないな、と思わせる「話し方」なのです。イーロン・マスクの思考形式の強力さから、それにたいする反論はまるで物理法則に逆らうような感覚さえ覚えますね。これがイーロン・マスクの持つ異常な説得力(魅力)の正体だと思います。

この後でご説明する構成力と時間の2つの要素は、誰かが真似しようと思えばできなくはないでしょう。ただ、イーロン・マスクの「話し方」の模倣は難しいと思います。表面的になぞることはできるでしょうが、それでイーロン・マスクのような魅力や説得力がでるとは考えにくい。おそらく人の「話し方」というものにはスピーカーの知性や性格、思考方法から人生経験まであらゆるものが表出するからでしょう。ということで、イーロン・マスクの「話し方」にこそ最も顕著に彼の天才性があわられるのです。




構成と時間

次に今回のプレゼンの構成と時間についてやりましょう。これもさきほどの記事から引用します。

私がイーロン・マスクのプレゼンで好ましいのはここだ。まず、約20分と短い。イーロン・マスクは人々の時間を無駄にしなかった。彼はこの短い時間で、人類の非常に重要な問題(化石燃料消費を抑える)を提示し、どのように対策可能なのかを説明した。そして、新しい製品という形で現実的な解決策をもたらした。購入可能な値段の製品である。これは驚くべきことなのだ。これら全ての要素が1つのショーで一度に見られることは非常に珍しい。テスラのプレゼンは感動的だった。

プレゼンで提示されるべき情報の量と質。どちらも完璧でした。ここにイーロン・マスクの天才的なトークが合わさった今回のプレゼンは、たしかに10年に1度あるかないかレベルだったのでしょう。




プレゼンの要約

さて、ここまで今回のイーロン・マスクのプレゼンの凄さについてお話してきましたので、皆さんどんなプレゼンだったのか気になるのではないでしょうか。プレゼンの流れがわかるような形でまとめてみましたのでそちらをご覧ください。印象的な箇所はイーロン・マスクの言葉をそのまま引用してお伝えします。(引用箇所以外はイーロンの言葉ではありません。僕がまとめたもので、自然な感じにするために口語で書いています。書き起こしではないのでご了承ください。)

(約1000人のゲストの前に姿をあらわすイーロン・マスク

今夜は、世界の仕組みの根本的な変革について、そして地球上のエネルギーの供給の仕組みについてお話ししたいと思います。

現在、世界の大部分の電力が化石燃料によって作られています。キーリング曲線を見れば明らかですが、大気中のCO2濃度が着実な上昇を見せていますね。

このまま何もしなかったら、私たちはダーウィン賞(愚かな行為による死滅)を獲得してしまいます。人類のために、そして他の生物のためにも、私たちは協力して何か対策をうたなければなりません。

現在、発電のために石炭、天然ガス原子力、水力、風力、太陽光を使っていますが、風力発電太陽光発電が十分ではないことは明らかです。

ここでお話したいのは、解決策についてです。この解決策は極めて明確で、私たちがやらなければならないことです。2つのパートに分かれますので、まずパート1から。パート1は太陽です。私たちは空に太陽と呼ばれる便利な核融合炉を持っています。何もせずとも勝手に機能しつづける代物です。毎日顔を出し、膨大なエネルギーを提供してくれます。

皆さん意外に思われるかもしれませんが、化石燃料による発電と同等の太陽光発電をおこなうのに必要な面積はほんのわずかです。ほとんどは既存の建物の屋根でまかなえます。わずかな面積の太陽光発電で、アメリカをゼロ炭素排出社会に変えることができるのです。

さて、ソーラーパワーの明らかな問題点、それは、太陽は夜に輝かないということです。ほとんどの人がこのことをご存知だと思います。この問題は解決されなければなりません。

日中に生み出されるエネルギーを貯蔵する必要があるのです。

太陽エネルギーの貯蔵、すなわちバッテリーです。そして、アメリカ全土を化石燃料による発電から解放するために必要なバッテリーの総面積は非常に小さい。太陽光発電に必要な面積よりもはるかに小さいのです。

既存のバッテリーは最悪でした。本当にダメです。こんな感じですね。高価で、信頼性が低い。あらゆる点で醜いですし、複数のシステムを組み合わせないといけなかった。購入すればすぐ使えるといったバッテリーは存在しませんでした。しかし、それこそ皆さんが求めるバッテリーです。解決策を考えないといけません。ミッシングピースなのです。持続可能なエネルギーの世界へ移行するために必要なこと。今夜お見せするものは、そのミッシングピースです。

ここで、今回の新しい製品を紹介しましょう。Tesla Powerwallです。従来のバッテリーが抱える問題点をすべて解決したバッテリーです。Powerwallはウェブサイトから注文可能で、3、4ヶ月後から発送できます。(製品の詳細は省略)

次に、ギガワットクラスのバッテリーであるTesla Powerpackをご紹介しましょう。家庭用バッテリーのPowerwallより大容量のバッテリーが必要な施設のためのバッテリーです。(製品の詳細は省略)

現在私たちが建物内で使っている電気を、バッテリーによる電気に変える良いタイミングと言えるのではないでしょうか。では、カメラ映像をご覧ください(注:カメラがプレゼンがおこなわれている建物の電気メーターに近づく)。この建物の電気メーターを確認しましょう。なんと、電力系統はゼロを指しています。今夜のプレゼンのすべての電力は、バッテリーによってによってまかなわれているということです。それだけではありません。このバッテリーはこの建物の屋根に設置されたソーラーパネルによって充電されたのです。この夜のすべて、あなたが体験しているすべてのものが、太陽の光によって蓄えられたものなのです。

ギガワットクラスのバッテリーがあれば小さな町1つの電力を供給できます。この世界を持続可能な社会に変えるには何が必要なのか。そして、それは本当に可能なのか。

1億6000万個のPowerpackでアメリカの、9億個のPowerpackで全世界の電力を供給できます。さらに言えば、20億個のPowerpackで世界中の交通、発電、暖房すべての電力をまかなえます。

20億という数字は決して達成不可能な数字ではありません。私たちが持っている自動車やトラックの数は20億台。そして、20年でそのすべてが入れ替わるサイクルです。毎年1億台近くの新しい自動車やトラックが生産されています。つまり、20億という数字は私たちのキャパシティー内にあるということです。

バッテリーの大量生産をおこなう予定のギガファクトリー1ですが、それは工場と言うより大きな1つの製品です。従来の工場のイメージ、画一的な機械が並んでいるようなものとは違います。私たちはギガファクトリーを1つの巨大なマシーンとしてデザインしています。このような工場が世界中でたくさん建設されるべきです。

テスラだけがギガファクトリーを建設するというわけではありません。テスラの特許解放の方針は、ギガファクトリーでも、Powerpackでも、他のすべての製品でも適用されるでしょう。

私たちが迎えるべき未来は、CO2の排出がゼロになった未来です。そして、私の知る限り、ソーラーパネルとバッテリーがその未来につながる唯一の道です。これは私たちに必要なことであり、可能なことでもあり、そして私たちがまさに実現しようとしていることなのです。

今夜はお越しいただきありがとうございました。楽しい時間を過ごしていただけたなら幸いです。

イーロン・マスク退場)

いかがでしょうか。かなり端折って書いてますが、それでも内容の濃さと構成の素晴らしさは伝わるかと思います。これを20分ですからね、すごいですよ。すべて書き起こしてご紹介したいほど優れたプレゼンでした(日本語字幕付きの動画があればいいですが)イーロン・マスクが膨大な資金を調達できる理由もわかります。非常に説得力がありますし、実行力は証明済み。それにイーロン・マスクの話を聞くと応援したくなるんですよね。おそらく彼が本気で人類を救おうとしているからでしょうし、イーロン・マスクのように圧倒的に優秀な人間が一体どれほどの事を成し遂げることができるのか、純粋に見てみたいというのもあります。それにしてもバッテリーという比較的地味な製品をここまで魅力的に見せ、その重要性を的確に悟らせるイーロン・マスクのプレゼン能力には恐れ入りました。次のプレゼンも楽しみです。

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