AIとロボティクスを技術史の視点で考える ~クランツバーグの法則~
Atlasというロボットをご存知でしょうか。初耳であればまずはこちらをご覧ください。きっと衝撃をうけるでしょう。
Atlasはボストン・ダイナミクス社が開発したロボットです。ボストン・ダイナミクス社は2013年にGoogleに買収され、2017年にソフトバンクがAlphabet社(Google)から買収することを発表しました。
ソフトバンクといえば人型ロボットPepperが有名ですが、Atlasの性能は他のロボットたちを圧倒しています。バク転できるロボットなんて信じられません。
これを見たイーロン・マスクは以下のようにツイートしました。
これはまだ序の口だ。数年以内にこいつはストローブライトでもないと見れないくらい速く動くようになる。夢のようではあるが・・・
This is nothing. In a few years, that bot will move so fast you’ll need a strobe light to see it. Sweet dreams… https://t.co/0MYNixQXMw
— Elon Musk (@elonmusk) November 26, 2017
SpaceXやTeslaを率いているイーロン・マスクはAI/ロボティクスの分野でもリーダーです。同時に、彼はAIが人類を脅かす存在になることを強く警戒しています。
Atlasのようなロボティクスの発展を目の当たりにすると、ロボットが今後どんどん人間を凌駕していく時代になるんだと実感できますね。イーロン・マスクの危惧も理解できるでしょう。
イーロン・マスクのようにAIを警戒する立場もあれば、AIによる輝かしい未来を支持する立場もあります。どちらの立場であれ、AIやロボティクスのテクノロジーの現状を冷静に把握しなければいけません。
1986年、メルヴィン・クランツバーグという技術史の研究者がいました。非常に重要な人物ですが、意外と日本では知られてないのかもしれません。彼は技術史を研究することで、技術の発展と社会の変革の関係性を分析し、テクノロジーの本質に迫る6つの法則を導きだしました。
今回はこのクランツバーグの法則を通して、AIやロボティクス等の私たちが直面しているテクノロジーの意味を正確にとらえてみましょう。
1. テクノロジーに善悪はないし、中立というわけでもない
この最初の法則は、おそらくもっとも重要な法則です。テクノロジーそれ自体を道徳観で判断することはできません。テクノロジーがもたらす影響は歴史的、政治的、経済的な文脈によって決まります。
同じテクノロジーでも外的要因によってまったく異なる結果を引き起こすことになるのです。
2. 発明は必要の母
最初から実用的なイノベーションはありません。つねに改善が必要。改善をうながすのが必要性です。イノベーションによって改善の必要性が生まれて、そこから実用的なレベルまで発展するわけです。
電気自動車が良い例でしょう。バッテリー、軽量素材、インフラ等の改善という新しい必要性を生みだしました。
3. テクノロジーは大きいものも小さいものもひとまとまり
スマホを見ればわかります。携帯本体のハードウェア、ソフトウェアは当然として、充電器やイヤホン、ルーター等の周辺機器から電話回線やインターネットへアクセスできる環境というインフラまで含めた1つのまとまりとして現出しています。
新しいテクノロジーとはパッケージングされたもの。大きなテクノロジーも小さなテクノロジーも、さまざまな構成要素が相互に作用するシステムとして存在しているのです。
4. テクノロジーが公共的諸問題の第一要素であっても、テクノロジー政策の決定は非テクノロジーな要因によっておこなわれる
技術者はテクノロジーの問題はテクノロジーの発展によって解決されると考えがちです。ところが、実際には政治や経済といったテクノロジーを取り巻く要因が、テクノロジーの問題解決の方針を決定します。
テクノロジーが効率的かどうかではなく、いつも民意が先行するのです。トーマス・エジソンとニコラ・テスラの闘いを見ればわかりますね。
5. 歴史はすべて関係しあっているが、とくに技術史はもっとも強い関連性を示す
テクノロジーは外的要因によって発展しますが、それでも他の事象にくらべると技術史はテクノロジー同士の関連性が強いです。
そして、第二次世界大戦での軍事技術の発達がロケット開発につながるように、現在の発展したテクノロジーは過去の重大な歴史的イベントに端を発しています。
人類史を理解するには、技術史の理解が必要。テクノロジーと歴史は密接に関連しているわけです。
6. テクノロジーが極めて人間的な活動であるように、技術史も人間活動の歴史である
人間がテクノロジーの使い方を決めます。人間活動がなければテクノロジーの発展はありません。
つまり、テクノロジーの歴史の背後には、人間の活動の歴史があるのです。両者がお互いの起因になり、関わりあいながら、本質的にはより良い世界をつくるために発展していくわけです。
以上、クランツバーグの法則をご紹介しました。
テクノロジーは道徳観で判断できませんが、道徳観を含めた人間活動がテクノロジーの歴史を紡ぎます。間違いなく言えるのは、テクノロジーが人類史に決定的な影響を与えるということ。AIとロボティクスは数あるテクノロジーのなかでも特大のインパクトを人類史に残すことになるでしょう。
私たちはすごい時代に生きているのです。