イーロン・マスクと電気自動車やエネルギーについて
- 2015年02月19日
- インタビュー
今回は以前紹介したThink Tankのインタビューの続きをやりたいと思います。
テスラモーターズについて
前回はスペースXの話まででしたが、インタビューは次にテスラモーターズの話に移ります。まずはテスラモーターズについての概要を聞かれたイーロン・マスク。
私はテスラモーターズの会長兼共同設立者です。テスラモーターズでは革新的な電気自動車、しかもスポーツカーを作っています。全てが電気で動き、走行距離は約250マイル(402km)です。加速性能としては時速60マイル(96km)まで4秒以下で到達します。価格は約10万ドル(1000万円)ほどで、このパフォーマンスにしてはとても競争力のある価格です。
I chairman and principal founder of Tesla, which — Tesla motors, which is making a revolutionary electric sports car. It痴 all electric, it has almost 250 miles range. It has acceleration which is less than four seconds to 60 miles an hour. And it痴 about 100 thousand dollars, so it痴 a compelling price for car of that performance.
車に詳しくない方(僕も全然詳しくないですが)のために参考までにご説明しますね。たとえば日産GT-Rは日本を代表するスポーツカーですが、その加速性能は時速100kmまで2.7秒で到達します。価格は約1000万円。もちろんガソリン車です。で、イーロン・マスクが言ってる加速性能ですが、テスラモーターズの公式ホームページを見ると時速100kmまで3.4秒(モデルS)という性能でした。価格はだいたい同じくらい。加速性能では分が悪いですね。でも注目すべきはテスラモーターズの車は完全な電気自動車(EV)だということです。僕は仕事で日産リーフに乗ってました。リーフもEVです。加速性能はあまり具体的に公開されてないようですが、一説によると時速100kmまで10秒とのことで、ちょっと遅い気がしますね。しかし実際にEVを運転してみるとわかりますがその数字よりかなり早く感じるんです。ポルシェも運転したことあるんですが、リーフの方が加速がすごいと思いました。その理由は初速の差。EVはモーター駆動ですが、モーターは初速からフルトルクが出せるからです。こう考えるとテスラモーターズの車に乗ったら怖いぐらいの加速が体験できるかもしれません。
テスラモーターズのスポーツカーの価格は将来的にも値下げはせずに1000万円くらいでの販売を予定しているそうです。ただファミリーカーとしてセダンを作るとのことで、そちらはもっと購入しやすい価格になるみたい。こうやってイーロン・マスクによってEVが普及していくわけですが、そこらへんのイーロンの予想はこんな感じです。
長期的な視野でみれば電気自動車は経済的にガソリン車よりも優位な立場に立つでしょう。ガソリンの価格が上がるのは間違いありません。ガソリン供給量には限界がありますし、中国やインドなどでガソリンの需要は急速に膨らんでいくからです。
ガソリン価格は上がりますが、テスラモーターズのような会社によって電気による交通機関のコストは下がります。
I think the long term electric cars will be more economically competitive than the — than the gasoline car. Also, the price of gasoline is going to rise over time given finite supplies and rapidly increasing demand, particularly from China and India, as we致e seen.
But in addition to the price of gas going up, the cost of electric transportation is going to go down, drive in part by companies like Tesla.
イーロン・マスクの言うとおりでしょう。シェールガス革命によってガソリン価格は一時的には値を下げましたが、どちらも埋蔵量に限界があるのは分かっていることですし、世界的にはまだまだ経済成長を続けて人口も増えます。さらに環境負荷の観点からもガソリンを使いづらくなるわけで、どう考えても長期的にはガソリン価格は値上がりすると思います。
次にエネルギー効率の話ですが、イーロン・マスクはEVの方が圧倒的に優れていると考えています。理由は以下のコメントから。
テスラモーターズの電気自動車は非常に優れていて、たとえば原油1ガロン使い発電所で発電したとしますね、そこから送電ロスや充電ロスを差し引いたとしても、原油を精製してガソリンにしてそれを使い同じサイズの自動車を走らせた場合よりも少なくとも2倍はエネルギー効率が良いのです。これはwell to wheel効率と呼ばれます。
the electric car by Tesla is so great that if you were to take a gallon of oil and you would put power — use that oil in an electric power station and take the efficiency of that power station — subtract the transmission losses [unintelligible] of the electric power lines — subtract the charging losses. And it said how many miles do you get out of that gallon of oil versus refine that gallon of oil into gasoline and run an equivalent sized car, using that gallon of gasoline — what you値l find is the electric car gives you at least twice as much mileage.
well to wheelとは油井から自動車油まで(採掘から走行による消費まで)を指す言葉です。EVで使用する電気は発電所で作られますが、発電所では石油を燃やして発電したりするので(もちろん原発をふくめいろんな種類の発電所があります)、ガソリン車でなくても石油は使います。なので結局石油を使うなら一緒じゃないかという意見をたまに聞きます。しかしイーロン・マスクによればそれは大間違い。ちょっと説明しましょうかね。ガソリンは石油から精製されるので、well to wheelで考えればEVとガソリン車はスタートとゴールが同じです。スタートは石油でゴールは自動車を動かすこと。で、同じ量の石油を使って、どのくらい自動車を動かすことができるかって話がこの場合のエネルギー効率。それでいくとテスラモーターズのEVの方がガソリン車に比べ2倍エネルギー効率が良いとイーロンは言ってるわけです。これはつまりEVが普及することで石油の埋蔵量減少ペースを2倍遅くすることができるということで、EVの普及によって資源の効率的な利用に至るのですね。
ところでガソリンがどういう風にできるかご存知でしょうか。ガソリンは石油から精製されてできますが、その精製は石油精製工場でおこなわれます。石油精製工場で原油を加熱して石油蒸気を発生させ、その蒸気が冷えていくと沸点の違う液体(石油製品)に分離できるんですね。ようは蒸留です。なぜ沸点が違うかというと、それは石油製品を構成している分子の大きさが違うからです。分子の大きさとは分子量の大きさを指し、分子量の大きさとは分子がもつ原子の総量を指します。ちょっとまどろっこしいですが、ようは分子が大きいということはそれだけ中身がたくさん詰まっているということです。分子や原子の間には様々な力が働いていて結合力を保ってますので、中身がたくさん詰まっているということはそれだけ結合力が強いことを意味します。んで、長くなってしまいましたが、沸点というのは分子の結合が解かれるポイントを指します。なので、分子が小さい→結合力が弱い→沸点が低い、分子が大きい→結合力が強い→沸点が高いという感じになります。原油にはいろいろな成分が混じっていますが、それぞれの成分で分子の大きさが異なるため、蒸留すれば分子の大きさで成分が分かれていくんですね。そうやって蒸留することにより原油からガソリン(沸点が低い)が精製されます。(蒸留の他にも様々な工程はあります)
エネルギーについて
ちょっと脱線してしまいましたが、イーロン・マスクの考えのベースとなっているのが物理学なので今後こういう話もちょいちょいやっていこうと思います。きっとイーロンの思考を理解するのに役立つはず。とくに肝となるのが電気についての知識です。イーロン・マスクは電気を大変重視していてこんな風に語ってます。
電気とは普遍的な通貨のようなものです。実に様々な方法で電気を作り出すことができます。ソーラーパネルや地熱発電のように再利用可能な方法も使えますし、環境負荷の少ない原子力発電所や、それに石油、石炭、天然ガスのような炭化水素を使う方法もあります。
electricity is the universal currency. You can generate electricity in many ways, including renewable ways such as solar power, wind, geothermal– and in ways which are less damaging to the environment such as nuclear and — and then even if you would generate energy with hydrocarbons such as coal or oil or natural gas
炭化水素とは石油や天然ガスの主成分で、炭素原子と水素原子のみの化合物のことです。人類のエネルギー資源の源。この炭化水素の埋蔵量に限界があるので、代替エネルギーを見つけだすことが急務になっていたのです。その一つの方法として原子力発電所にも触れられてますね。原子力発電所についてのイーロンの考えはこちら。
私たち(アメリカ)は数十年原子力発電所を建設してません。
we not built new nuclear plants in a couple decades.
私たちはもっと原子力発電所を建てるべきです。石炭や天然ガスを使った発電所よりもエネルギーを生み出す方法としては優れていると思います。
炭化水素を燃やすというのは、皆さんはもうご理解されてると思いますが、とても良くないことです。大気や海におけるCO2のキャパシティにも限界があるのです。
we should build more nuclear power plants. I think that痴 a better way to generate energy than certainly a coal power plant or a natural gas power plant.
Burning hydrocarbons — I think people now recognize is a pretty bad thing. You know over time there痴 a certain limit to the CO2 capacity of the atmosphere and the oceans.
意外にもイーロン・マスクは原発推進派でした。まぁ、あくまで炭化水素を使う火力発電よりはってことでしょうけどね。
アメリカとXプライズ財団について
この後インタビューはアメリカという国について。ここらへんはちょっと端折りますが、イーロン・マスクは非常な愛国者です。イーロンは南アフリカ生まれで17歳でアメリカにやってきた移民ですが、それだからこそ冷静に歴史を分析してアメリカの功罪を把握しています。その上でアメリカは偉大な国だと言ってました。完璧な国ではないし、いろんな過ちもたくさん犯してきたが、やはり民主主義を守るために重大な役割を果たしていたと。
ご存知のとおりアメリカは移民の国で、移民はそれぞれルーツとなる文化を抱えています。その文化が混ざり合い、多様性を確保しながら発展していってるのがアメリカという国です。興味深いことに移民の方が愛国者になりやすいらしいですね。イーロンもその一人でしょう。
あとは、そうですね、Xプライズ財団の話もでてきました。Xプライズ財団とは人類に良い影響を与えるテクノロジーの発展のためデザインされたNPOです。イーロン・マスクは財団のスポンサーの一人です。財団のミッションは「人類のための根本的なブレイクスルー」をもたらすことで、そのためにコンペなどを開催して個人や企業のモチベーションにつながるような活動をやっています。イーロン・マスクの他に、ジェイムズ・キャメロンやラリー・ペイジ、ハフィントン・ポストを設立したアリアナ・ハフィントンなど豪華メンバーがスポンサーになってます。宇宙開発にとくに力を入れているようで、イーロン・マスクがスポンサーになるのも納得です。
株式会社と尊敬する政治家について
次は株式会社の話。イーロン・マスクの考えでは株式公開は急いでするものではないく、会社がその段階に達したときに自然とおこなうべきものだそうです。そして株式公開の目的は資金を集めて他の会社を買収することで、そうやって規模を大きくしていくために株式公開はあるとのこと。そしてイーロン・マスクの会社についてですが、テスラモーターズもスペースXもソーラーシティも規模を大きくすることより、社会変革をもたらすために存在してるので、あまり規模を大きくすることについては熱心ではないとか。ただ、もちろん社会変革などそれぞれの会社の目的達成のためには会社としての価値が高くなっていく必要があるので、そこはしっかり考えてるそうです。
インタビューの最後はイーロン・マスクが尊敬している政治家について。基本的には政治家を尊敬するタイプではないとの前置きの後、このようなコメントが。
歴史的に言えば、ウィンストン・チャーチル、セオドア・ルーズベルト、ベンジャミン・ディズレーリですね。
I mean, historically I would say Winston Churchill — on of the greats; you know maybe Teddy Roosevelt, Disraeli.
ウィンストン・チャーチルはイギリスの政治家で第一世界大戦、第二次世界大戦でイギリス軍を率いた軍人でもあります。またノンフィクション作家という顔も持ち、ノーベル文学賞も受賞してます。セオドア・ルーズベルトは第26代アメリカ大統領。力強いリーダーシップを発揮し、アメリカという国の発展を支えた人です。チャーチルと同じように軍人であり、作家でもありました。この二人は有名ですね。3人目のベンジャミン・ディズレーリはイギリスの政治家で、イギリス帝国主義時代の外交で活躍した人物。そしてやはり作家でもありました。イーロン・マスクは作家をやってる政治家が好きなのでしょうか。
インタビュワーからもっと最近の政治家で誰か好きな人物はいないかということでレーガン大統領について尋ねられてイーロンはこう答えます。
レーガンは偉大だと思いますよ。もっとも偉大な政治家の一人でしょう。
I think Reagan was great. Actually I think he was — he should be up there among one of the great — as one of the greater
さらにインタビュー当時の現役大統領だったブッシュについても質問されますが、あまり評価はしてないようでした。やってる政策はともかく、それを支える知性に関してレーガン大統領には大きく劣ると言ってます。やはりイーロン・マスクは知性を重視するんですね。
さて、これでThink Tankのインタビューは終わりです。二回にわけてご紹介しましたがどうでしたでしょうか。イーロン・マスクについての記事はたくさんありますが、インタビューの方がイーロン・マスクという人間が伝わってきていいですよね。インタビュー動画もたくさんありますので、そちらも紹介していきたいと思います。