火星への核攻撃は人類を救う?
イーロン・マスクは人類を火星に移住させるために奮闘しています。スペースXで宇宙事業をおこなっているのもそのためです。
火星は(地球以外の)他の太陽系の惑星にくらべると地球に似た環境をもつ星なので、人類の移住先としてもっとも有力な候補だからです。
とは言っても、火星が非常に過酷な環境であることは疑いようがありません。南極よりも寒く、アリゾナ砂漠のような地表ですし、呼吸はできません。生身で長時間外にいると太陽の放射線で死に至ります。
そこで登場するのがテラフォーミング。人為的に火星を地球環境に近づけようというアイデアです。
TV番組に出演したイーロン・マスクは火星のテラフォーミングについて質問をうけました。このイーロン・マスクの答えが非常に話題となっています。
イーロン・マスクによると、火星のテラフォーミングには「ゆっくりやる方法」と「急いでやる方法」の2つがあるそうです。そのうち、彼の提案した「急いでやる方法」はじつに驚くべきものでした。
原子爆弾を(火星の)極地に投下することですね。
Elon Musk wants to nuke Mars – WTF? | Alphr
びっくりしたホスト役のColbertは思わず「なんて悪者なんだ!」と叫びます。いくらイーロン・マスクが自分で合理的な考えだと思っていても、周囲の人間からすると突拍子もない発言です。驚くのも当然ですね。
イーロン・マスクを追いかけていると度々このような場面を見かけます。彼は合理的に考える人物なので、思考方法自体に他者との乖離はそれほどありません。誰でも合理的に考えようとするでしょう。
ところが、彼の場合は合理的思考がきわめて徹底しているうえに思考のベースとなる知識量が膨大なので、いくら考え方が納得できるものであっても、彼の口からは意外な結論が飛び出すのです。
それに、たとえ同じ結論にいたったとしても普通なら発言を躊躇するようなことをイーロン・マスクは平気で言ってしまいます。
今回の発言はその典型的な例と言えるでしょう。
さて、イーロン・マスクは今回の発言で何を言いたかったかというと、火星のテラフォーミングをおこなう手っ取り早い方法は、原子爆弾を爆発させて極地にある氷を蒸発させるということです。氷を蒸発させることにより火星の気温を上昇させる。つまり、火星を地球に似た環境へ導くことができるわけです。
火星のテラフォーミングのカギは火星の気温の上昇にあるのです。
では、実際のところこの刺激的なテラフォーミングの方法は専門家にどのように受けとめられているのでしょうか。
コロラド大学のBrian Toonは以下のように述べます。
※彼は1991年に火星のテラフォーミングに関する論文を書いた人物です。
(火星を)地球のような状態にできる可能性はあるかもしれませんが、乗り越えるべき壁はたくさんあります。爆弾を爆発させることは良い(アイデア)とは言えません。
Elon Musk wants to nuke Mars – WTF? | Alphr
つづいて、インペリアル・カレッジ・ロンドンのMatthew Gengeはこう語ります。
できるだけ早い火星のテラフォーミングを望むなら、その方法は(火星の)氷を蒸発させるものとなるでしょう。しかし、核兵器を使用して十分な量の氷を蒸発できるとは思えません。
Elon Musk wants to nuke Mars – WTF? | Alphr
史上もっとも巨大な核兵器はツァーリ・ボンバ。ソビエト連邦が開発した水素爆弾です。水素爆弾なのでイーロン・マスクが言っていた原子爆弾とは違いますが(水爆は核融合爆弾で原爆は核分裂爆弾)、その威力は原子爆弾を遥かに凌ぎます。
火星のテラフォーミングにはこのツァーリ・ボンバをもってしても不十分だそうです。火星をテラフォーミングするには膨大な量の核爆弾が必要になるということですね。それに、人間にとって有害な放射線もでます。
しかも、じつはこの方法、結果的に火星を冷やすことにもなりかねないのです。核爆弾の爆発により大量の粉塵が舞い上がり、太陽光を遮断してしまうおそれがあるからです。
というわけで、火星のテラフォーミングを急ぐなら原子爆弾を投下すれば良いというアイデアはかなり議論の余地があるということですね。それでも大変ユニークな意見であることには間違いありません。
後日イーロン・マスクがTwitterでこの件について触れていましたので、そちらのツイートをご紹介しておきます。
ところで、火星に核爆弾を投下「すべき」だと言ったわけではない。ただ選択肢を並べただけなんだ・・・
Btw, not saying we *should* nuke Mars — just layin’ out a few options …
— Elon Musk (@elonmusk) 2015, 9月 12