イーロン・マスクのすすめ

イーロン・マスクはどうやって学習しているのか

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イーロン・マスクはロケットや電気自動車をつくったりしてます。しかも、垂直着陸可能な再使用ロケットや自動運転機能搭載の電気自動車です。最先端技術をつかっているわけです。

しかし、イーロン・マスクがもともとそのような専門知識をもっていたわけではありません。彼が名をあげたのはペイパル(オンライン決済サービス)ですし、最初に立ち上げたのもZIP2というソフトウェアの会社でした。

にもかかわらず、イーロン・マスクのインタビューや彼の周りにいる人たちの話を聞くと、彼が自分の事業領域にかんしてハイレベルな専門知識をもっていることがうかがえます。

彼はどのようにして膨大な量の情報を吸収していったのでしょうか。

イーロン・マスクの伝記を書いたアシュリー・バンスによると、彼は「友達からもらった教科書を読み、専門家や会社のスタッフから話を聞く」ことで、きわめて短い時間で専門家に近いレベルの知識を身につけることができるそうです。

イーロン・マスクは複雑で膨大な知識を高速で身につけることができるということ。

すごいですよね。彼の能力がずば抜けて高いからそういう芸当が可能、という一面はたしかにあると思います。しかし、もしそれが能力だけによるのではなく、彼の学習方法に秘密があるとすればどうでしょう。日々の学習に活かせるかもしれません。

ということで、そのあたりが気になって調べてみました。そして、イーロン・マスクの学習方法を分析したいろんな記事を読んでみてわかったのですが、彼の学習方法はかなり特徴的です。

今回、その特徴についてまとめてみることにしました。人生は学習の連続なので、きっと皆さんの役にも立つと思います。




セマンティック・ツリー・メソッド 

セマンティック・ツリー・メソッドは、このブログで何度か紹介している学習方法です。どういうものかというと、まず、学習しようと思っている知識体系を一本の「木」に見立てます。そして、それらの知識を「木」を構成している要素(「幹」・「枝」・「葉」)に分けていきます。

で、最優先で学習すべきなのは「幹」となる知識です。それがないと、「枝」や「葉」といった情報がぶら下がれません。

たとえば、歴史上の出来事の年号のような「枝葉」の情報を先に覚えようとしても効率的ではないということです。まずは「幹」となる知識の吸収に集中するという感じで、優先順位をつけて学んでいきましょう、という話。

イーロン・マスクのことを詳しく分析したこちらのブログの説明がわかりやすいです。

もし何かを完璧に理解できないんだとしたら、君の頭のなかの(知識の)「木」には「幹」がないってことなんだ。トピックについての新しい知識は新しい「枝」や「葉」のこと。そいつらは「幹」がなかったら何にもぶら下がることができずに落っこちていくだけだよ。

How Tesla Will Change The World – Wait But Why

どうやって「幹」をつくるのか

セマンティック・ツリー・メソッドの有効性が納得できて、いざ実行してみようとしても、問題はどうやって「幹」を見つけるのかってところです。

これは、同じブログ内に答えがありました。

曖昧な箇所をクリアにしていくことで、僕は頭のなかの木に「幹」を作る。そうすれば、新しい情報はしっかりつかまることができる。

How Tesla Will Change The World – Wait But Why

さらに、イーロン・マスクの発言も引用できます。

例えば、エンジンの仕組みを誰かに教えるとします。伝統的なやり方では、「まずは、ねじ回しやレンチについて詳しく教えます」となるでしょう。この方法でエンジンの仕組みを学ぶのは非常に難しい。

「これがエンジンです。さぁ、分解してみましょう」。ではどうやってやるか。そこで、ねじ回しが必要になります。これがねじ回しが存在する理由です。すると、非常に重要なことがおきます。それぞれの道具の関連性が明らかになるのです。

Elon Musk created his own grade school for the children of SpaceX employees | The Verge

要するに、情報を「原因」と「結果」に分けて、芋づる式に「原因」をたどるというやり方ですね。「枝」や「葉」はもとをたどれば「幹」へと収束していくってことです。

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Stefan Marti and Keith Emnett – Daboo – Paper

このセマンティック・ツリー・メソッドについてはイーロン・マスク本人も推奨していて、いわばイーロン・マスク公認の学習方法です。




様々な分野を学習する

じつは、一口に「幹」を理解したと言っても、理解の深さはバラバラ。「幹」の理解は、それが深くなるにつれ、他の知識体系=「木」へも適用可能なものとなります。いわば、「幹」の本質を理解するわけです。

そして、イーロン・マスクの理解レベルはこの域まで達しています。なので、別な知識体系であってもたやすく「幹」へたどりつくことができるのです。

あらゆる知識体系に共通する「幹」の本質的理解ですね。

では、どうやって「幹」の理解を深めるのかですが、その答えは「様々な分野を学習する」というものです。

たとえば、「幹」を「A」としましょう。この場合、何が「A」を「A」として成立させているのか理解する、これが本質的に「A」を理解するということです。

「A」を本質的に理解するためのアプローチは2つ。いろんな「A」を眺めるか、1つの「A」を何度も眺めるか、です。図にしてみましょう。以下の、Approach#1(左の図)とApproach#2(右の図)です。

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How Elon Musk Learns Faster And Better Than Everyone Else | Observer

いかがでしょう。Approach#1のほうが「A」の本質がわかってくるのではないでしょうか。様々な形の「A」を比較することで、「A」を定義づけている本質に迫れるわけです。一方、Approach#2だとむしろゲシュタルト崩壊して、「A」が何だったかよくわからなくなりそうですね。

つまり、いろんな知識体系の「幹」を学習していくことで、「幹」の本質がわかってくるということです。

そして、その「幹」の本質はあらゆる知識体系に共通するものなので、新しい知識体系の「幹」へ到達するスピードがあがり、「幹」も強固なものになるわけです。




専門化は危険?

1つの分野ばかりに打ち込むのではなく、いろんな分野を学習する。これはじつは社会通念とは逆の学習方法です。一般的には、何かをマスターしようと思ったら一生懸命それだけに打ち込むことが推奨されていますよね。

しかし、Dean Keith Simontonという人の調査で、いろんな分野を学ぶ効果を裏づける事実がわかりました。

Dean氏は20世紀におけるトップのオペラ作家59名を調査しました。彼らがどのようにして傑作を生みだしたのかを調べたのです。

調査によると、様々なジャンルの混合によってオペラの傑作が誕生したということがわかりました。専門的に1つのことに打ち込んだからというわけではなかったのです。

むしろ、優れたオペラ作家は、過剰な練習による硬直性をクロストレーニング(他分野の学習)によって回避していたそうです。つまり、専門化するより、いろいろな分野に手をだした方が効果的だということを示しています。

さらに言えば、専門化をうながす社会通念は弊害であるという指摘さえあります。引用してみましょう。

私たちは専門化することが論理的で、自然で、理想的だというトレンドの時代にいる。しかし、人間は包括的な理解をする生き物だ。専門化は孤独感や無力感、また個人的な混乱を呼び起こす。そして、他人に対する社会的な行動や思考をおこなう責任を放棄させる。

How Elon Musk Learns Faster And Better Than Everyone Else | Observer

実際に、イーロン・マスクはソフトウェア、オンライン決済、ロケット、自動車、エネルギー、人工知能等の多様なジャンルを学習して、それぞれで成果をだしています。1つの分野に閉じこもらないからこそ、これだけの成果がだせるのではないでしょうか。

まとめ

イーロン・マスクの学習方法をまとめるとこうなります。

  • ①知識を「原因」と「結果」に分け、「原因」を追及することで知識体系の「幹」をつくる
  • ②他の分野を学習することで、あらゆる知識体系に共通する「幹」の本質を理解する

興味のある複数の分野を①でどんどん掘り下げて「幹」に到達すれば、「幹」に共通する本質が見えてきます。=②

そうなれば、新しく学ぶ分野の①のスピードがあがり、学習する分野が増えるほど、②が強化され、また①のスピードアップにつながるという好循環になります。

結果として、多くの「幹」をもつことになり、膨大な数の「枝葉」の知識がぶら下がれるようになるでしょう。

イーロン・マスクは頭のなかに多数の知識体系の「幹」をもち、「幹」の本質を理解している状態なんですね。

これによって、1つの分野だけに専門化して「枝」・「葉」・「幹」の優先順位をつけずに学習するよりも、大幅に少ない時間でめざましい学習効果をあげることができるというわけです。これが、イーロン・マスクが膨大な知識を高速で身につけることができる理由でした。 

参考

observer.com

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