ブルー・オリジンのニュー・シェパードが垂直着陸に成功 ~ファルコン9との違い~
AmazonのCEOでジェフ・ベゾスが設立したブルー・オリジンが単段式ロケットであるニュー・シェパードの打ち上げに成功しました。
ニュー・シェパードは目標の高度100kmまで無事に到達。高度100kmはカーマン・ラインと呼ばれ、国際航空連盟によってこのラインを超えると宇宙空間だと定められています。
民間企業が宇宙へ到達したのはすごいことですが、注目すべきはその後。ニュー・シェパードはそのまま降下して逆噴射で垂直着陸をおこなってみせたのです。
これはイーロン・マスクのスペースXがずっと目指してきた能力で、イーロン・マスクもTwitterでブルー・オリジンへ賛辞を送りました。
ジェフ・ベゾスとブルー・オリジンチーム、君たちのブースターによる垂直離着陸の達成をお祝いするよ。
Congrats to Jeff Bezos and the BO team for achieving VTOL on their booster
— Elon Musk (@elonmusk) 2015, 11月 24
ジェフ・ベゾスもニュー・シェパードの打ち上げ成功をツイートしています。じつはこれは彼がおこなった最初のツイート。ツイートしないことで有名なジェフ・ベゾスですから、よほど嬉しかったのでしょうね。
さて、ブルー・オリジンの成功を賞賛したイーロン・マスクですが、スペースXの先を越されたとは思っていない様子です。ブルー・オリジンの成功にたいするイーロン・マスクのコメントを紹介していきましょう。
宇宙空間からの垂直着陸に前例はある
2013年に開始したスペースXのサブオービタル垂直離着陸フライトにジェフはおそらく気づいていない。2014年のオービタル水上着陸。それに次はオービタル陸上着陸だ。
Jeff maybe unaware SpaceX suborbital VTOL flight began 2013. Orbital water landing 2014. Orbital land landing next. https://t.co/S6WMRnEFY5
— Elon Musk (@elonmusk) 2015, 11月 24
イーロン・マスクによると、スペースXはグラスホッパーという試験用ロケットで3年前にすでに準軌道飛行(サブオービタルフライト)からの垂直着陸を成功させているとのこと。
そして、彼は過去に宇宙空間からの帰還を成し遂げたX-15という航空機やスペースシップワンの存在を指摘し、ニュー・シェパードは決してきわめて特殊(rarest)な事例などではないと言います。
最初の再使用サブオービタルロケットの功績はX-15(※1)へ。そして、民間ではバート・ルータン(※2)へ。
But credit for 1st reusable suborbital rocket goes to X-15 https://t.co/LSb0f8FLJd And Burt Rutan for commercial https://t.co/TGWlNjsyQz
— Elon Musk (@elonmusk) 2015, 11月 24
※1)X-15はジェットエンジンではなくロケットエンジンで上昇できるロケットプレーン(航空機)です。1963年にニュー・シェパードよりも約7km高い高度を飛行して滑走路に着陸しました。
※2)バート・ルータンはスペースシップワンを設計した人物。スペースシップワンはスケールド・コンポジッツ社によって開発された宇宙船です。2004年に高度約100kmのサブオービタルフライトを成功させています。しかも有人でのフライトだったので、世界ではじめて民間企業による有人宇宙飛行となりました。
このように、ブルー・オリジンが成功させたサブオービタルフライトからの着陸は先行事例があります。が、それにしても逆噴射による垂直着陸はすごい。
ただし、着陸に続けて失敗しているスペースXのファルコン9と今回着陸に成功したブルー・オリジンのニュー・シェパードを単純に比較できません。この2つのロケットはゴールに違いがあるからです。
ファルコン9とニュー・シェパードの目的の違い
「宇宙」と「軌道」の違いをはっきりさせることが重要だ。ここにうまく表現されている。
It is, however, important to clear up the difference between “space” and “orbit”, as described well by https://t.co/7PD42m37fZ
— Elon Musk (@elonmusk) 2015, 11月 24
イーロン・マスクの言う「宇宙」と「軌道」の違いとは何でしょうか。それはファルコン9とニュー・シェパードの目的の違いを見れば理解できます。
ファルコン9の目的:ペイロード(将来的には宇宙飛行士)を低軌道上のISS(国際宇宙ステーション)へ届ける
ニュー・シェパードの目的:民間人の宇宙飛行をおこなう
ファルコン9が目指すのはISSです。ISSの高度は約400km。一方、ニュー・シェパードが目指すのは宇宙空間です。宇宙空間は高度100kmを超えればOKです。
ただし、ファルコン9で垂直着陸をおこなうのはファーストステージです。そして、このファーストステージの切り離しはニュー・シェパードとほぼ同じ高度。
比較すべきはファルコン9のファーストステージとニュー・シェパードです。なので、ゴールとなる高度が違っても切り離しの高度が同じなら一見すると高度差はゼロのように思えますね。
ところが、ゴールとなる高度の差が「宇宙」と「軌道」の違いというわけではないのです。
じつは、その違いはロケットの速度。ファルコン9の速度はマッハ10。対してニュー・シェパードはマッハ3.7なのです。
ファルコン9が目指すISSは低軌道上をぐるぐる回っていて地表には落ちてきません。ISSにかかっている地球の重力は地表とそれほど変わらない(約90%)のに地表に落下しない理由はただ1つ。ISSがものすごい速度で地球の周りを回っているからです。その速度はなんと秒速8km。これは地球を90分で一周するスピードです。銃弾の速度(砲口初速)は拳銃の場合秒速340m以下なので、ISSの周回速度がいかに速いかわかると思います。
このように低軌道上を超高速で移動しているISSへペイロードを届けるミッションをおこなうのがファルコン9。だからロケットにも速度が求められるわけですね。一方、ニュー・シェパードのミッションは有人宇宙飛行なので宇宙空間に到達すればいい。ファルコン9よりも遅くていいのです。
そして、このロケット速度の差はそのまま降下距離の差にもつながります。切り離しの高度が同じでも、より高速で移動しているファルコン9のファーストステージは切り離し後も長く上昇を続けます。つまり、ファルコン9のファーストステージの降下距離はニュー・シェパードよりも長くなるというわけです。
つまり、ゴールが「宇宙」か「軌道」かで垂直着陸の難易度が変わってくるということです。
簡単に言ってしまえば、ファルコン9の着陸のほうが難しいんですね。これがイーロン・マスクが言っている「宇宙」と「軌道」の違いです。
まとめ
イーロン・マスクのコメントを紹介しているとブルー・オリジンが大したことないみたいに聞こえてきますがそんなことはありません。ブルー・オリジンは本当にすごいと思います。それにニュー・シェパードはかっこいいんですよね。こちらに今回の打ち上げの動画を貼っておくのでぜひご覧になってください。
Historic Rocket Landing – YouTube
今回のブルー・オリジンの成功でイーロン・マスクも刺激を受けたのではないでしょうか。
スペースXの打ち上げ失敗から数ヶ月。そろそろファルコン9の打ち上げが再開されるようなので楽しみですね。