イーロン・マスクのすすめ

ハイパーループ構想にふさわしい星は火星だったのかもしれない

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飛行機、列車、船そして自動車に次ぐ5番目の交通機関として、イーロン・マスクが考案したハイパーループという乗り物があります。

ハイパーループとはチューブのなかに浮かんだ車体に人々が乗り込んで高速移動するというもの。新しい交通機関として期待されているハイパーループですが、じつは、人類が火星に移住したときに大活躍するポテンシャルを秘めた交通機関でもあったのです。

真空チューブ列車

ハイパーループ構想は真空チューブ列車のアイデアをベースにしています。真空チューブ列車はチューブ内を真空にして抵抗(摩擦力と空気抵抗)をゼロに近づけ、高速で人や物資を輸送するシステムです。

真空チューブ列車のアイデアは19世紀から存在していました。イギリスでは1847年に真空チューブ列車の試験が実施されていたのです。なので、アイデア自体は決して新しいわけではありませんね。

日本でも1970年にロケット列車実験というとんでもない実験がおこなわれました。ニトログリセリンを燃料としたロケットエンジン搭載の全長1メートルの車体、ロケット列車。この車体を真空チューブのなかで走らせようという実験です。

開発の中心は名城大学理工学部教授の小沢久之丞。旧陸軍の爆撃機「飛龍」を設計した人物でした。

実験結果は驚くべきもので、車体は1600メートルを3秒で滑走。時速2500キロメートルという圧倒的な速度をたたき出しました。東京大阪間を14分で移動できるスピードです。

ただ、実用化に向けて車体の加速時にかかる約30Gとも言われる加速度対策に加えて、超高速で移動する車体を安全に停止するための対策が必要でした。しかし、小沢久之丞はそれらの課題の解決を見ることなく死去。結局、そのまま日本における真空チューブ列車開発は実現することなく終了してしまいました。




ハイパーループ

イーロン・マスクが考案したハイパーループは減圧したチューブ内で空中に浮いた車体が走るというものです。

考え方は真空チューブ列車と同じで、可能な限り車体にかかる抵抗を減らすことで移動速度を向上させるというもの。チューブ内の減圧によって空気抵抗を減らし、車体を空中に浮かせることで摩擦力をゼロにします。

抵抗を減らすことでハイパーループの最高速度は時速1220キロメートルに達します。ロサンゼルスとサンフランシスコ間(610キロメートル)を30分で移動できる速度です。

既存の高速列車の速度は時速約500~650キロメートル。2倍近くの速度が実現できるわけですね。

そして、ハイパーループのもう1つの特徴は自家動力の交通機関であるという点です。ハイパーループで使用される電力はチューブに搭載された太陽光パネルで賄われます。石油などの化石燃料は不要なのです。この特徴はハイパーループをより先進的なものにしています。




ハイパーループの最大の課題

ハイパーループは、抵抗を減らすことで移動速度を向上させ、太陽光パネルを設置することで自家動力を可能にする理想的な交通機関に思えます。しかし、ハイパーループ構想には大きな課題があります。

じつは、ハイパーループのロサンゼルスからサンフランシスコまでの建設コストは約7400億円と見積もられているのです。全国規模で建設するには数十兆円のコストがかかるでしょう。

飛行機に乗ることで時速約800~1000キロメートルで移動することはすでに可能です。飛行機より時速200~400キロメートル速く移動するために、数十兆円をかけてハイパーループを建設するかどうか、難しいところですよね。

主要な都市間を結ぶだけであれば最大のコストパフォーマンスを発揮できますが、ハイパーループによって未来の交通機関が一変するというのは期待し過ぎかもしれません。

それに、移動速度が最大の魅力であるハイパーループですが、果たしてそのような高速移動の需要はハイパーループの運営を支えるほど存在するのでしょうか。

たとえば、十数年前にコンコルドプロジェクトというものがありました。コンコルドはイギリスとフランスが共同開発した超音速旅客機です。

コンコルドの速度は時速約2200キロメートル。ハイパーループの約2倍の速度です。大西洋をまたいでニューヨークからロンドンまで3時間もかからずに移動できました。しかし、プロジェクトを維持するには十分な市場が存在しなかったため、コンコルドプロジェクトは2003年に終了してしまったのです。

ということで、超高速移動が売りのハイパーループはかなりニッチな市場を狙うことになりそうです。莫大な建設コストがかかる上に市場がニッチ。ハイパーループ構想の最大の課題です。

火星の交通機関としてのハイパーループ

地球の市場では厳しい戦いが予想されるハイパーループですが、他の星となると話が変わります。ハイパーループが本当に必要とされるのは火星なのかもしれません。何を隠そうハイパーループ構想の生みの親であるイーロン・マスクの目的は人類を火星に移住させることなのですから。

高速移動が特徴の交通機関として、ハイパーループの最大のライバルは飛行機です。しかし、人類が火星で飛行機に乗ることは考えにくい。理由は火星の大気にあります。

飛行機が空を飛ぶためには、飛行機を浮かせる力である揚力が必要です。揚力は飛行機の翼で生み出されます。移動する飛行機の翼の周りを流れる空気によって飛行機の重量を上回る揚力が発生し、飛行が可能になるのです。

揚力は大気密度に比例します。大気密度が2倍であれば揚力も2倍。大気密度が半分になれば揚力も半分になります。

じつは、火星の大気密度は地球の約80分の1なのです。なので、地球と同じ速度で移動する飛行機が得られる揚力も約80分の1。火星の重力の強さは地球の40%ほどですが、飛行機の重量を浮かせるにはまったく揚力が足りません。

つまり、火星での移動手段として飛行機は役に立たないのです。

それに、火星で化石燃料の採掘は期待できません。化石燃料は生物の死骸が高温高圧の環境下に置かれることで生成されます。火星に生物が存在したかどうかは不明ですが、少なくとも現時点で火星で化石燃料を期待するのは現実的ではありませんね。

これらの環境条件を鑑みると、ハイパーループが火星上での交通機関としていかに優れているのかがよくわかると思います。ハイパーループには揚力は必要ありませんし、太陽光パネルによる自家動力なので化石燃料も不要です。

人類が住むことになる火星コロニーの数は多くなく、それぞれが離れた地点に位置することになるでしょう。ハイパーループが最大のコストパフォーマンスを発揮できるというわけです。




まとめ

ハイパーループというテクノロジーが向かう先は地球を超えたはるか彼方の違う星。そして、イーロン・マスクはスペースXで人類の火星移住を目指しています。そう考えるとハイパーループが火星で活躍するのはごく自然なことのように思えないでしょうか。

ハイパーループは人類が長年抱いてきた真空チューブ列車構想の最新版とも言えます。人類の夢は星をまたいで花開くのかもしれませんね。

参考

theconversation.com

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