IMFによって暴かれた化石燃料の真実
- 2015年05月21日
- 再利用可能エネルギー, 化石燃料
今回は先日のイーロン・マスクのツイートを取り上げたいと思います。こちらですね。
IMFによると、化石燃料には1分あたり約12億円の補助金が使われている(のと同じだ)
Fossil fuels subsidised by $10m a minute, says IMF http://t.co/c4nsZjXc32
— Elon Musk (@elonmusk) 2015, 5月 19
記事は国際通貨基金(IMF)が5月18日に出したレポートに関する内容です。さて、今回のメインテーマはイーロン・マスクがツイートした1分あたり12億円という金額の意味です。記事の内容とあわせてご説明していきたいと思います。
論旨
どういうレポートおよび記事なのか、簡単にまとめてみます。まず、結論としては、各国政府で化石燃料の採掘を抑えていきましょうということ。そのための手段として化石燃料の価格を引き上げる。なぜなら現状化石燃料の価格が本来の価格より大幅に低いからです。化石燃料の価格を本来の価格にする、つまり化石燃料の価格を引き上げれば当然消費量も下がり、化石燃料の採掘量の抑制につながります。簡単に言うとこういう論旨です。
イーロン・マスクがツイートした金額の意味
記事の論旨をより理解するためには、外部不経済という概念を知る必要があります。外部不経済とは、経済主体(生産者や消費者など)が市場を通さずに、他の経済主体に悪影響を及ぼすこと。公害を考えていただければわかりやすいと思います。公害の代表格、水俣病を例にしましょう。水俣病の場合、生産者はチッソという会社でした。チッソは農薬を生産していましたので、消費者はチッソの農薬を購入する人たちです。チッソに何の問題もなければ、生産者と消費者の関係だけ(市場内)で完結していたところですね。ところが、チッソの工場廃液から有機水銀が発生していたのが問題でした。この有機水銀によって、生産者でも消費者でもない人々が有機水銀中毒にかかるという公害が発生しました。市場を介さずに第三者へ害が及んだわけです。これがチッソの農薬がもたらした外部不経済です。
外部不経済を放置しておくとまずいので、市場へ内部化しないといけません。内部化の有効な手法は製品価格に反映させるということです(他にも手法はいくつかあり、とくに水俣病などの公害ではもっと直接的な手段が望ましいです)。製品価格に外部不経済を補填するためのコストを上乗せしましょうという考え方ですね。きちんとその製品の経済主体に負担してもらうわけです。ピグー税と言われるもので、製品価格に税金をかけることで実現できます。これをやるには外部不経済を補填するコストを算出しないといけません。本来の製品価格(ピグー税がかかった価格)を導くためです。IMFが今回のレポートで出した数字がそれです。
さて、もうお分かりでしょうか。メインテーマであるイーロン・マスクがツイートした金額の意味ですが、それは化石燃料の外部不経済を補填するためのコストでした。
化石燃料の外部不経済を補填するコスト
イーロン・マスクがツイートした金額である1分毎に12億円、年間で約600兆円ですが、この額が化石燃料の外部不経済を補填するコストだということがわかりました。ただ意味はわかっても、額が大きすぎてあまりピンとこないのではないでしょうか。そこで、記事から専門家たちの反応を抜粋してご紹介したいと思います。
今回のレポートの責任者であるDavid Coady氏は言います。「この数値が出てきたとき、私たちはもう一度確認し直さないといけないと思ったくらいです。」
「これらの数値(化石燃料の外部不経済補填コスト)はショッキングだ。」IMF財政局のヴィトル・ガスパル局長は語ります。「エネルギー価格は、その本来の価格を痛ましいほどに下回っている。」
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの高名な気象経済学者であるNicholas Stern氏は言います。「これは非常に重要な分析です。化石燃料の本来の価格を示すことで、化石燃料が安価であるという思い込みを粉砕してくれました。化石燃料への膨大な外部不経済補填コストは正当化できません。市場を歪め、経済にダメージを与える。とくに貧しい国々が影響を受けます。」
年間600兆円というのは世界の国内総生産(GDP)の約6%に相当します。凄まじい規模ですね。ちなみに、この額の半分以上が政府が大気汚染の被害者の治療に捻出するコストや、(死を含む)健康被害による歳入ロスによるものです。
本来であればこのコストはピグー税として製品価格へ反映されるべきです。しかし、現状は反映されていない。言い換えると、(化石燃料の)生産者は負担するべきコストを免れているということですね。代わりに各国の政府が負担している。これが補助金が使われているのと同じことだという意味です。そして、もちろん政府の歳入は僕らの支払う税金です。次の言葉にすべてが集約されています。
英国のシンクタンクODIの補助金専門家であるShelagh Whitley氏は言います。「IMFのレポートは他のことも示唆しています。世界中の政府が一世紀前のエネルギーモデルを下支えしているということです。様々な要素を組み合わせると、IMFによってハイライトされたエネルギー補助の多くが、新しい原油、天然ガスそして石炭の探索に流れていることが私たちの調査で明らかになりました。不可逆的でおぞましい環境変化を避けたいのなら、それらは地面の下に留めておくべきものなのですが。」
つまり、僕らの税金が最終的には環境破壊へ使われてしまっているということですね。
化石燃料の外部不経済の内部化がもたらす3つの効果
化石燃料においては現状が何だかおかしなことになっていることがわかってきました。どう対応すればいいのでしょうか。繰り返しになりますが、外部不経済の補填コストの処理には、外部不経済の市場への内部化が有効な手段と言われています。前述したピグー税ですね。つまり外部不経済補填コストを製品価格へ反映させるということです。これによって、化石燃料の価格が上がります。化石燃料が本来の適正な価格になる。では、化石燃料が本来の価格になればどのような効果が期待できるのでしょうか。これも記事から抜粋していきます。
1.地球温暖化防止
世界でもっとも尊敬されている金融機関の1つであるIMFによれば、化石燃料の外部不経済の内部化によって世界の炭素放出を20%削減できるそうです。これは、世界が苦戦している地球温暖化防止に向けた大きな一歩となるでしょう。
2.大気汚染防止
外部不経済の内部化によって、外気の大気汚染による死者を50%削減できます。つまり、年間160万人の命を救えるということです。
3.代替テクノロジーの発展
これは引用せずに説明しますが、要するに、化石燃料の価格が上がれば、再利用可能エネルギーが相対的に競争力を持つということです。そして、再利用可能エネルギーへ大量の資本が流れ、テクノロジーが発展する。化石燃料の代替エネルギーである再利用可能エネルギー、それに関わるテクノロジーが発展するということですね。
まとめ
化石燃料の外部不経済の内部化は上記の3つ以外にも様々な効果があると考えられています。いずれにせよ、重要なことは外部不経済の規模が大きい化石燃料はできる限り地下に埋めとくべきだということ。外部不経済の補填コストを政府が負担してまで化石燃料の消費を促す必要性はないというのが今回のレポートおよびご紹介した記事の主張です。
ご存知のとおりイーロン・マスクも化石燃料からの脱却を訴えています。ソーラーパネルと電気自動車、そしてバッテリーという製品で再利用可能エネルギー社会へ移行を進めているところですね。文明の発展において、化石燃料が必要な段階があったことは否定できません。しかし、現代のテクノロジーを考えると、化石燃料依存型の社会が合理的だとはとても思えません。既得権益との戦いは激しそうですが、文明の発展という大きな視点で見ると、化石燃料からの脱却は当然の帰結ではないでしょうか。